コラム 『日本映画の玉(ギョク)』 森田富士郎が語る三隅研次   Text by 木全公彦
スクリーンサイズと構図
――最近はHD撮りでサイズをあとからどうにでもできるように撮っているし、手持ちも多いから、きっちりした構図の映画が少ないように思います。ハリウッド映画では最初から劇場用はシネスコで、DVD用はヴィスタとかにするつもりなので、昔の映画よりも構図が緩い。スーパー35ミリなんかもそうですね。

森田確かにそうです。『将軍 SHOGUN』(80年、ジェリー・ロンドン監督)というテレビ映画がありました。あれはテレビでやってから映画版としても公開するつもりでね。あのとき私はB班をやったんですが、フレームが映画用とテレビ用と2つあって、テレビ用のフレームに合わせて構図を決めると、両サイドに空きができちゃう。一体どうしたものかと最初は往生しました。アメリカから来たキャメラマンに相談したら、これはテレビ映画だからテレビのサイズに合わせてくれと言うんですね。劇場のはあとからそれ用にトリミングすると。

――現場でサイズを決めるんでなく、あとからどうにでもサイズを変えるというのはハリウッド映画に限らず、どこもそうなりつつありますね。映画本来のタイトで厳密な構図の作品が減っている気がします。

森田いけませんね。私もそれは問題だと思っているんです。たとえばハイビジョン(テレビ)の再生機ね。ワイドとかズームとかの機能がついているでしょ。ああいう機能をつけること自体が間違いなんだ。ハイビジョンは16:9に決まっているはずでしょ。だから視聴者が勝手にサイズを変えて見るようなことは認識が間違っていると、私はメーカーの人にも言ったことがある。キャメラマンというのは柱1本切れるか切れないかということでキッチリと構図を決めて画を撮っているんだから。いつだったかシネマスコープの作品をコンプレッション(圧縮)レンズのまま、つまり縦長のまま放送していたことがある。なんちゅう放送をするんだとテレビ局に抗議の電話をしたことがあります。

――もうテレビそのものが16:9がスタンダードのものになってしまってますからね。一般の人は4:3の作品や番組でも平気で16:9で見てますもん。あれはちょっとイカンのではないかと。

森田あれが平気だという美意識を植え付けたのは誰だということになると、メーカーのエゴでしょ。誰か文科省に文句を言うべきですよ。モネやマネの絵画をそんないびつな形で見せるなんてことしないでしょう。これは大変に失礼なことです。そういう認識が文科省にないから通産省に文句を言えないんだ。それはちゃんと規制して、サイズを勝手に変えられないようにすべきなんです。