映画の中のジャズ、ジャズの中の映画 Text by 上島春彦
第31回 アンドレ・プレヴィンのジャズ体験   その6 プレヴィンの“聖”三角形
「ジャズ―映画」線分
そして本連載的に最も注意深く検討し、既述するべきなのが言うまでもなくプレヴィン音楽の「ジャズ―映画」的線分ということになろう。しかしこの側面に関しては「ジャズ―クラシック」「クラシック―映画」の各辺に比べると書くのが難しい。最初に記したように近年のプレヴィンはあくまでクラシック音楽を自らの本分と定めており、映画音楽からは完全にリタイア、そしてジャズ・ピアニストとしては「しろうと」と規定しているからだ。この部分に関して重要な点は次回にたっぷり記述するとして、今回は幾つか余録的なアルバム紹介にとどめておく。
「マイ・フェア・レディ」に始まった舞台ミュージカルのジャズ版については50年代の録音を中心に幾つか紹介してきたが、珍しいことに近年同様のコンセプト・アルバムが出た。「ショウ・ボート:アンドレ・プレヴィン&フレンズ」“Andre Previn and Friends Play Show Boat”(Deutsche Grammophon)である。プレヴィンが舞台の「ショウ・ボート」をいつ見たかは不明だが、ライナーノートには「音楽語法的にもセンセーショナルで私は大変感激した」と書いてあるらしい。「らしい」と記したことからわかるであろうが、私はこのアルバムを所有していない。ではあるがレイ・ブラウンとマンデル・ロウが参加しているのでそれなりに音の見当はつく。注目はドラムスにグラディ・テイトが加わったところか。
必ずしもジャズにストレートにこだわらず、もっとエレガントに、あくまでジャズ風味という程度にスタンダードを弾きこなすプレヴィンというのも一方にはいる。近年では「アローン」“Alone”(ユニバーサルミュージック・クラシック)。タイトルからわかるようにソロ・ピアノによる作品集、その中には映画『コンチネンタル』“The Gay Devorcee”(監督マーク・サンドリッチ、34)の挿入歌「ナイト・アンド・デイ」等に混じって自作「愛のささやき」も入れてある。これは映画『サンセット物語』“Inside Daisy Clover”(監督ロバート・マリガン、65)から。実はプレヴィンにはこういったポピュラー音楽寄りの志向も元々持っている。代表作はその名もずばり「ポピュラー・プレヴィン」“The Popular Previn, Andre Previn Plays Today’s Big Hits Arranged and Conducted by Marty Paich”(Columbia)。珍しく『ねえ!キスしてよ』“Kiss Me, Stupid”(監督ビリー・ワイルダー、64)のテーマ曲がはいっているが、この映画の音楽担当者がプレヴィンだった。プレヴィンはここではピアニストに徹しており、アレンジャーはマーティ・ペイチが務めている。