映画の中のジャズ、ジャズの中の映画 Text by 上島春彦
第31回 アンドレ・プレヴィンのジャズ体験   その6 プレヴィンの“聖”三角形
「映画―クラシック」線分
まず「映画―クラシック」という分野。プレヴィンは作曲家としても近年、まさにプレヴィンの出自ならではと言うべき作品を作っている。テネシー・ウィリアムズ原作「欲望という名の電車」“A Streetcar Named Desire”(サンフランシスコ・オペラ初演、97)とノエル・カワード原作「ブリーフ・エンカウンター」“Brief Encounter”(ヒューストン・グランド・オペラ初演、2009)(共にDeutsche GrammophonからCD化)の二つのオペラである。どちらも高名な戯曲が原作だが映画化されて世界中で愛されるようになったのは言うまでもない。前者はエリア・カザン監督同名作品(51)で映画音楽はアレックス・ノース。後者はデヴィッド・リーン監督で邦題『逢びき』(45)、こちらの映画音楽は記名クレジットなし(しかし担当者はジョン・ホリングスワースと判明している)、全編にラフマニノフの「ピアノ協奏曲第二番」が使われていることで有名だ。
オペラは映画とは別物なので映画に使用された音楽が使われることはないが、プレヴィン版オペラにインスピレーションを与えているのが前者のジャズ・テイストの音楽と後者のラフマニノフなのは明白だ。既にプレヴィンには、ピアノ・ソロイストにヴラディーミル(ウラジミール)・アシュケナージを起用したロンドン交響楽団版「ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第1&第2」“Piano Concertos No.1&No.2”(Decca、ユニバーサル・ミュージック・ジャパン)という名盤もある。
またこの領域ではエリッヒ・ヴォルフガング・コルンゴルト(エリック・コーンゴールド)の再評価に一役買ったのがプレヴィンだったことも忘れてはならない。コルンゴルトは三十年代初期ヨーロッパを拠点に活躍した作曲家だがヒットラーの迫害を逃れてアメリカに渡り、三十年代後半からアメリカ映画の作曲家となった。彼のハリウッドにおける代表作の幾つかをコンサート用に再編曲してプレヴィン指揮でアルバム化したのが「コルンゴルト:海賊ブラッド」“Previn Conducts Korngold”(Deutsche Grammophon、ユニバーサル・ミュージック・ジャパン)である。演奏はロンドン交響楽団。使用されている四本の作品のオリジナル映画を紹介しておく。『シー・ホーク』“The Sea Hawk”(監督マイケル・カーティス、40)、『女王エリザベス』“The Private Lives of Elizabeth and Essex”(監督マイケル・カーティス、39)、『海賊ブラッド』“Captain Blood”(監督マイケル・カーティス、35)、『放浪の王子』“The Prince and the Pauper”(監督ウィリアム・キーリー、37)。
『スター・ウォーズ』(監督ジョージ・ルーカス、77)以降のジョン・ウィリアムズの映画音楽の最も大きいインスピレーション源となっているのがコーンゴールドのこれらの音源であるのは有名な話だが、そもそもサントラ盤『スター・ウォーズ』“Star Wars Ⅳ A New Hope, Original Motion Picture Sound Track”(ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル)で演奏しているのがロンドン交響楽団であり、ロンドン響とウィリアムズを結びつけたのがウィリアムズの親友プレヴィンだったのだ。