海外版DVDを見てみた 第3回『モーリス・エンゲル=ルース・オーキンを見てみた』 Text by 吉田広明
モーリス・エンゲル=ルース・オーキンDVD-BOX
普遍的な映画作家として
エンゲル=オーキンが映画作家であったのは、十年にも満たない短い期間であったが、インディペンデント長編映画が映画として十分成立するのだし、それがこれまでの映画と違った話法、形式を持ち得るのだということを示した意味は大きい。しかしやはり社会的意識の強いアメリカのインディペンデント映画に、日常的な題材を描く彼らを継ぐものは現れなかった。50年代から60年代という、映画ばかりでなく時代も激動した時代にあって、日常にこだわった彼らの映画がいささか生ぬるく見えてしまったのも致し方ないことなのかもしれない。それもあってか、エンゲル=オーキンの映画は、インディペンデント映画の元祖として、確かに記録はされていても忘れられ、実際に見られる機会も無くなってしまったように見える。しかし、同時代の生々しい色が剥がれおちた後で見返す時、かえってエンゲル=オーキンの普遍性が見えてくるということもある。そろそろアメリカ・インディペンデント映画のパイオニアという歴史的な価値ゆえではなく、単なる映画作家としてエンゲル=オーキンを見直しても良い時期ではないだろうか。

モーリス・エンゲル=ルース・オーキンの三作品のレストア版を収めたBOXは、アメリカKINOから2008年5月に発売。彼らの娘メアリー・エンゲルによる父モーリスのドキュメンタリー「Morris Engel: The Independent」(28分)と、母ルースのドキュメンタリー「Ruth Orkin: Frames of Life」(18分)が特典映像として入っている。字幕なしだが、ほぼ字幕無しでも理解できる。リージョンなし。フランス版もCarlottaから出ている(2009年11月)。フランス語字幕つき。リージョンは2だがPal版。KINO版の特典に加え、映画批評家アラン・ベルガラによるイントロダクション(11分)がつく。