海外版DVDを見てみた 第26回 モーリス・トゥルヌールの犯罪映画 Text by 吉田広明
モーリス・トゥルヌール
ハリウッドでのノワール/スリラー
モーリス・トゥルヌールは、現在はむしろジャック・ターナーの父親として知られているくらい、また知られているとしてもアメリカ時代のサイレントの傑作によって、であって、あまりその作歴の全体は知られていないのかもしれない。略歴を記す。

1876年パリの宝石商の家に生まれ、ロダンやピュヴィス・ド・シャヴァンヌの助手を務めた後、演劇に関心を持ち、役者として舞台に立つ。1911年、エクレール社に入社、翌年には監督、メロドラマのシリーズものなどを撮っていた。英語に堪能だったモーリスは1914年、エクレール社のアメリカ支社に送られ、エクレール社やその他の会社のため、サイレント長編を撮った。この時期の傑作に『一門の誉』(17)、『青い鳥』(18)、『勝利』Victory(19、未)、クラレンス・ブラウンとの共同監督『モヒカン族最後の者』(20、未)、『ローナ・ドゥーン』(22)などがある。18年時点で、G・W・グリフィス、トマス・インス、セシル・B・デミルに次ぐ映画作家と見なされていた。スタイリストであり、「繊細さ、抑制、ムードの持続で知られた」(エフレイム・カッツ映画事典)。26年、ジュール・ヴェルヌ原作『竜宮城』製作時にMGMと衝突、フランスに戻る(『竜宮城』はリュシアン・ハバード監督名義、何故か『魔女』で知られるベンヤミン・クリステンセンも未クレジットながら関わっている)。モーリスは第一次大戦時に良心的な徴兵忌避者だったようで、フランスではそのことで彼を非難する向きもあったようだ。

28年からフランスでも長編を撮り始めるが、まだサイレントだった。30年以降トーキーに移行する。モーリスの作歴は第一次フランス期(サイレント)、アメリカ期(サイレント)、第二次フランス期(トーキー)に分けられるが、アメリカでのサイレント長編、フランスでのトーキー長編が映画史的には重要である。今回のDVDボックスに入っていた『被告人、立ちなさい』Accusée, lezez-vous(30、未)がモーリスにとって最初のトーキー作品となる。49年、車の事故で片足を失い、映画を引退、以後アメリカのミステリー小説の翻訳をした。1961年、八十三歳で死去。

モーリス・トゥルヌールのアメリカ、サイレント期の傑作は、アメリカでも何本かはDVD化されているが、まとまったボックスのようなものは無かった。フランスではこの三月(2014年)にBach filmから、『一門の誉』、『青い鳥』、『モヒカン族最後の者』、『ローナ・ドゥーン』、『郡共進会』County Fair、『鞭』The Whip、『勝利』Victoryをまとめたボックスが出る。モーリス・トゥルヌールの生涯を通しての最良の作品群である。興味のある方は。次項から、ボックスの犯罪映画三作品について詳しく見ていく。