映画の中のジャズ、ジャズの中の映画 Text by 上島春彦
第50回 ポーランド派映画とジャズ  後編・オラシオさんのリスニングイヴェントに参加して
クシシュトフ・コメダ
ポーランド・ジャズ受容体験2012-2013
前々回前回とお届けしてきた「ポーランド映画祭2012」関連の話題も一応今回でひと区切りとしたい。ポーランド映画におけるジャズというテーマは重要でありながら、現段階では私の手には負えない部分があまりに多い。最重要人物クシシュトフ・コメダを一つのきっかけにして何とか語ってきたけれども、そのコメダ一人に関しても輪郭どころか、彼のジャズピアノ、映画音楽、人脈、いずれについてもその端緒を示す程度しか出来ていない。従って、コラムのコンセプトとしてはレジュメとかラフスケッチといった線ですらなくて、昨年からのいくつかのイヴェント(下記)に私が参加して、その感想と今後の展開へのヒントを記述するものとなっている。言い換えれば2012年秋から13年にかけての日本におけるポーランド・ジャズ受容体験のささやかな一例ということになるだろう。ご了承願いたい。

別に軒先を貸してもらっている母屋の主人をよいしょするわけではないけれども、ここ数年の「ポーランド派」映画再発見の試みに紀伊國屋書店とマーメイドフィルムの存在が不可欠(DVD-BOXによるロマン・ポランスキー短編全集、初期スコリモフスキ、ワイダ選集、等)だったのは間違いなく、その一つの総括が昨年12年11月24日から12月7日に開催された「ポーランド映画祭2012」<http://www.polandfilmfes2012.com>であった。このイヴェントではハス、コンヴィツキ、クッツといった監督たちの、日本では正式に劇場公開されていない傑作がまとめて見られたのも収穫であり、また、それに先立つ11月17日に行われた「第38回ビブリオテック文明講座」でもポランスキーが話題になっている。このイヴェントは吉田広明の画期的新著「亡命者たちのハリウッド 歴史と映画史の結節点」(作品社)発刊を記念して企画された吉田さんと滝本誠さんとによるトークショーである。亡命という概念を透してポランスキーを見る時、逆に亡命という概念に変容が生じている。その件が語られたと言えばよいか。

ところで、この同じコンビが今度は来る2月11日(祝日、月)にアテネ・フランセ文化センターにも登壇するので乞う御期待。こちらはDVD「フィルム・ノワール・ベスト・コレクション」リリース記念の上映会とトーク企画なのでポランスキーは関係ない。
さて、映画祭関連の音楽イヴェントとして11月23日の「ポーランドのサントラとジャズの関係」にも参加させていただいた。これはDJオラシオさんの主催。同じく彼主催のもう一つの音楽イヴェント「クシシュトフ・コメダ 二つの顔を持つ男」が今年の正月1月9日にも開かれてこちらにも参加。前者のセット・リストは彼のブログ「オラシオ主催万国音楽博覧会」に掲載されているが、何故か後者のリストは私が原稿を書いている時点ではまだアップされていない。まあそのうち載るでしょう。なので私のコラムではイヴェントの詳細なレポートというのではなく、かかった楽曲やそのパーソネルからの関連や展開を気ままに記してきた。
そして、この度のポーランド映画祭では監督アンジェイ・ムンク(1921-1961)の全長編がまとめて見られたのも快挙だった。あまりに重い『パサジェルカ』(63)でしか知られていなかったムンクが、実は優れた喜劇作家でもあることを示した『エロイカ』(57)と『不運』(60)。トリッキーな話法を楽しめる『鉄路の男』(56)。映画祭の監修者イエジー・スコリモフスキはムンクの弟子にして友人であり、これら四本のムンク・セレクションに映画祭に賭けるスコリモフスキの狙いの一つがあったのは間違いない。とりわけ私を感激させてくれたのは『不運』の主演者ボグミウ・コビェラの喜劇演技であった。というところまでがここまでの「あらすじ」。