一人の若者が警察に追われており、彼はある弁護士と連絡を取ろうと必死になるが、弁護士はそれに応じようとはしない。遂に警察に捕まるが、留置所で自殺してしまう。なぜ彼が自殺したのか、なぜ彼が必死に弁護士に連絡しようとしていたのか、を主筋として映画は進んでゆくが、その過程で、ホモセクシャルを脅迫している組織の存在が明らかにされてくる（イギリスでは67年まで、同性愛は違法行為だった）。弁護士もまたかつて、死んだ青年とホモセクシャルな関係にあったのだが、今はそれを封印していた。しかし自分をかばって青年が死んだこと、組織が彼を脅迫していた事実を知り、自身の地位と名誉を捨て、結婚生活の破綻を覚悟で、組織と戦う決意をする。

弁護士を演じているのはダーク・ボガード。『兇弾』で映画俳優として認知された彼は、その後、医学生の集団を主人公とするコメディ連作で主演し、スターダムにのし上がっていた。本作は、そうしたスターとしてのイメージを完全に捨て去ることになるシリアスな役柄であり、またしてもディアデンは、ボガードにとって転機をもたらすことになる。ちなみにボガード自身は一生独身で、ホモセクシャルを疑われていたが、生涯これを否認し続けた。

本作で興味深いのは脅迫者たちの造形で、例えば一番の手先として働く男はバイカーで、黒い革ジャンを着、黒いドでかいゴーグルをかけ、部屋には裸の男のギリシャ彫刻の写真を飾ってある、という、マッチョ野郎そのもので、本当はホモじゃないの、と思わせるスタイルで笑える（ダーレン・ネスビットが演じている）。顔も爬虫類のようで不気味。彼がネチネチとホモのおやじを脅迫する場面は見ていて実に不快。そしてその母親が実行犯の元締め。黒縁めがねで、捕まる時には、あんたら警察がしっかり取り締まらないから、ホモ野郎がのさばるんだ、あたしたちは社会に良いことをしているんだと、悪びれもせず言いたてる。『サファイア』の犯人の女と同型の人物。そして犯人グループの元締めは、実は身体障害者。ただし、自身が身体障害であることの心理的な捻じれが、そうした卑劣な行動につながっている、というわけでもなく、ただの意外性目当ての設定であり、掘り下げが今ひとつではある。