海外版DVDを見てみた 第9回 カヴァルカンティの『私は逃亡者』を見てみた Text by 吉田広明
今回からしばらくはイギリスのフィルム・ノワールを取り上げてみる。フィルム・ノワールは必ずしもアメリカ特有のジャンルというわけではなく、ある程度映画産業が発展して、犯罪映画が一つのジャンルとして確立された国ならばどこでも戦後の暗い世相を反映した犯罪映画の一変種としてフィルム・ノワールは出現しうるのであって、イギリスも例外ではなかった。同じ英語圏でもあり、とりわけ赤狩りの時代には、アメリカを追われた映画人がイギリスでノワールを撮っていたりもして、イギリスのノワールの製作本数はアメリカに次いで多い。またその中には傑作も多々含まれていて、そうした作品の多くはイギリス本国やアメリカにおいてDVD化されているものの、日本ではその存在すらあまり知られているようではない。二十世紀半ばのイギリスの映画といえば、キャロル・リード、マイケル・パウエルといった世界的にも著名な一部の監督を除いて、イーリング・コメディすら日本語字幕付きで見られるようになったのはつい最近のことに過ぎない。前々回、前回に取り上げたビル・ダグラスやテレンス・デイヴィスは個人映画作家であったが、そうではない、商業映画におけるイギリス映画の豊かさを紹介してみようと思う。今回取り上げるのはアルベルト・カヴァルカンティの『私は逃亡者』They made me a fugitive(47)。