コラム 『日本映画の玉(ギョク)』 木村元保さんのこと   Text by 木全公彦
『大地の子守歌』

DVD『曽根崎心中』(絶版)

「DVD-BOX 小栗康平作品集」(絶版)
異色の独立プロデューサー
次に木村さんが我々をあっと言わせたのは、藤井浩明とともに独立プロ・行動社を興したもののほとんど勝プロの子飼い監督に甘んじていた増村保造に、『大地の子守歌』(76)を撮らせたことである。木村さんがどのようにして増村と知り合ったのかは不明だが、私財を投入して映画製作のために木村プロを設立すると、魑魅魍魎が跋扈する映画界に素人が飛んで火にいるなんとやらとばかりに参戦し、その結果、儲けは出なかったが、これによってようやく増村も本調子を取り戻したのだった。当初はATGで製作・公開するはずだったのだが、予算がふくらみ、ATGが降り、結局公開は松竹が配給することになった。

勢いに乗る木村さんは続いて再び増村とコンビを組み、ATGで『曽根崎心中』(78)を製作。以降、木村さんから離れた増村が失速し、晩節を汚したとしか思えない2本の愚作を残してあえなく憤死したことを考えると、木村さんは興行的にはどうあれ、晩年の増村の代表作を製作したのだった。

本業の鉄工所経営は弟に譲ると、今度は知遇を得た浦山桐郎の紹介で、小栗康平と知り合い、『泥の河』(81)を自主製作してしまう。モノクロ、スタンダードサイズの地味な映画。配給も決まっていない新人の第1回作品。売れる要素はまったくない。草月ホールでの自主興行は評判を呼び、東映セントラル系列での配給が決まり、その年のキネマ旬報第1位を獲得する。配給権ごと東映に売却したので、今度の赤字はそれほどでもない。しかしなんたる暴挙!