コラム 『日本映画の玉(ギョク)』 木村元保さんのこと   Text by 木全公彦
VHS『ナナカマドの挽歌』(絶版)
映画道楽のはてに
それだけにとどまらない。ついに自分がメガホンをとることになる。秋庭ヤエ子の書いた半自伝的小説の映画化『ナナカマドの挽歌』(83)である。不幸な出生、不運と極貧の半生の中で、子供に注ぐ愛を支えに生きていく女性の姿を描く……って、今では純文学も敬遠するネクラな内容。脚本は椋露地桂子、吉原幸夫、そして木村元保。昭和30年代初めの北海道の奥深い雪山を舞台に、赤ん坊を背負ったヒロインが木材切り出し人足たちの世話をする。挿入される不孝な過去。ヒロインは新人の美池真理子。『泥の河』とのつながりなのか、東映セントラル系列で封切られたが、『泥の河』以上に東映セントラルらしからぬ地味な話で、演出・演技ともに凡庸でただただ退屈だった記憶がある。確認のため、なぜか東宝からリリースされているVHSのビデオで再見したが、真面目なだけで死ぬかと思うほど退屈な作品だった。

木村さんもさすがに失敗したと思ったのか、自分は商業監督には向いていないと思ったのか、「もう監督は御免」と公言し、再びプロデュースに専念して、新人・中津川勲監督で『龍飛岬』(88)を製作。生後間もない自分を捨て、母を自殺へ追い込んだ父親に復讐の念を燃やす女性の人生を描くというストーリーは、木村さん自身の原作。これは未見だが、またも辛気臭い内容で、なんで自主映画時代は特撮を生かした戦争映画やSF映画を作っていた人がこうなるのかよく分からない。雑誌を読むと、どの映画のときも「儲からなくてもいい」と口癖のように繰り返す木村さんだったが、結局この映画が最後になった。

2002年2月28日、肺炎で死去。享年67。一度でいいから話をしてみたかった気がする。