映画の中のジャズ、ジャズの中の映画 Text by 上島春彦
第36回 アメリカ60年代インディペンデント映画とジャズ   その2 クラーク、ワイズマン、そして『クール・ワールド』(前回の続き)
恋は甘いか、苦いか、両方か
そしてもう一本、マルが音楽を担当した映画『スウィート・ラヴ,ビター』についても記しておこう。と言ってもこの映画のことはライナーノーツに書かれている以外のことは私にもわからない。というかライナーを担当した佐藤秀樹も小川隆夫もよくわからないで書いている。映画を誰も見ていないのだから当然である。ともあれ音楽を聴いて感じたことを中心に記すことにする。
この映画は66年に本国アメリカでリリースされたもの。ということは、マル・ウォルドロンは既にヨーロッパに渡っていたはずだからサントラ音源作製のために一時帰国していたものだろうか。ジャケットを読むとアルバム『クール・ワールド』「オール・アローン」の場合と異なり、これがちゃんとした「オリジナル・サウンド・トラック」アルバムだとわかる。つまりこの音源が映画にそのまま使われている。映画の監督はハーバート・ダンスカという人物だが、彼のことは全く知らない。画家でもあるらしい。ダンスカは映画音楽を誰に依頼したら良いかナット・ヘントフに相談し、ウォルドロンという回答を得た。『クール・ワールド』の音楽に惚れ込んでいたヘントフだからこれは当然だったろう。ジョン・A・ウィリアムズの小説「ナイト・ソング」が原作である。ヘントフ自身既に原作を読んでいたというから話題の小説だったものか。
物語は黒人のジャズ・サックス奏者イーグルを巡る人間模様を描いている。彼の周囲にいるのは「イーグルの友人の白人教師デヴィッド」、「イーグルの支援者の黒人青年キール」そして「白人女性デラ」の三人。イーグルとデヴィッドは麻薬中毒者でもある。デヴィッドに裏切られたイーグルは麻薬のオーヴァードーズで死に、デヴィッドも去る。キールとデラが残される。人種差別や麻薬といった、66年当時のアメリカ映画界では嫌がられるテーマが積極的に取り上げられていることからも、この映画が「アンチ・ハリウッド」な色彩の作品であるのがわかる。脚本と制作を担当しているのが日本では実験映画作家として知られ、また大学でドキュメンタリー映画史を論じ著書もあるルイス・ジェイコブスである点を鑑みれば、この映画も実験映画、ドキュメンタリー映画、劇映画といった幾つかの異なるジャンルのハイブリッド的な作品であったかも知れない。単純に言って『マンハッタンの哀愁』よりは『クール・ワールド』に近いタッチのものであったのは間違いない。音源は13曲が用意された。最も耳に馴染むナンバーはやはり、映画のテーマ曲であり別名「ルーザーズ・ラメント」とも呼ばれる冒頭のものだろうが、奇妙な位「レフト・アローン」を思わせる。形式はAABAで同じだし、Bパートの長さが二倍になっているものの旋律が全体にそっくり。ジョージ・コールマンによるアルト・サックスの音色がジャッキー・マクリーンに似ていることもその印象を倍化する。ただしこちらにはテナー・サックスとトランペットも参加している点が異なる。
このナンバーは完成度もそれなりに高く、長さも五分以上あって聴きごたえがあるが、その他の曲はやはり全体に短すぎるようだ。それにどこかで聴いたようなメロディーが多いのも気になるところ。ジャズ・アルバムとしては中途半端な出来だと言わざるを得ない。テーマの次に印象的なのが「ブリンドルズ・プレース」でこちらはピアノのモノローグ的な始まり方が「オール・アローン」ぽい。こうしてアルバムを聴いてくるとマル・ウォルドロンの映画的60年代は「レフト・アローン」を出発点にして「オール・アローン」『スウィート・ラヴ,ビター』でひとまとまりになる系列と『クール・ワールド』サントラ盤という二つの系列が並列しているようだ。