海外版DVDを見てみた 第27回 アベル・ガンスの『戦争と平和』、『鉄路の白薔薇』 Text by 吉田広明

『ナポレオン』嵐の海のナポレオン

『ナポレオン』トリプル・エクランの一例
『ナポレオン』
ナポレオンの生涯を描くもので、構想の七分の一しか実現できなかったというが、それでもレストア版で三時間四十分の大作。軍の幼年学校から、フランス革命を経て、イタリア遠征まで。手法的には『鉄路の白薔薇』と同じような印象。故郷であるコルシカ島で政敵に追われたナポレオンが海に逃げる場面と、荒れる国会を並行モンタージュした場面が第一のピーク。国会の人の群れの上でカメラをロープに吊るして振り子状に揺らして撮影、ナポレオンのボート(フランス国旗を帆にしている)が揺られる波を模しているわけである。幾重にもわたるオーヴァーラップと、群衆、波、ナポレオン、ダントン、マラーの顔が素早くモンタージュされる。ただ、この場面は「荒れている」という意味にすべてが還元されてしまい、その枠をイメージそのものが超出する感じがしないので、物足りないといえば物足りない気はする。

本作が有名なのは多重画面(三つの画面なのでトリプル・エクランと呼ばれる。エクランは英語で言えばスクリーン)によってであるが、それは最後の二十分でようやく現れる。疲弊した兵士たちに檄を飛ばし、整列させ、進撃開始する。使い方としては大きく二つに分けられ、シネスコのように三つの画面をつなげて一つの情景を描写するのが一つ、三つの画面をそれぞれ同じないし違う内容に当てながら、画面全体で象徴的な意味を表現するのが一つ。後者についてその例をいくつか挙げれば、横二つに騎馬上のナポレオン、真ん中に更新する兵士たち、あるいはその逆は、ナポレオンという理念と、兵士たちというその実現を象徴するだろう。左にイタリア地図、真ん中にナポレオンの愛するジョゼフィーヌ、左に地球儀の画面は、愛による世界の統一を象徴的に表現するだろう。また、左右に行進する兵士たち、真ん中にこれまでの過去が素早くモンタージュされる画面、これは過去が現在に集約されてゆくことを意味するだろう。そして最後に三つの画面がそれぞれ青、白、赤に色づけされ、フランス=共和国を象徴する。個々の物理的画面がいくつも(画面自体は三つにしても、その中でオーヴァーラップもあればモンタージュもあるので理論的には無限に)重ねられることで、共和国、という精神的なものに超出してゆく外延的モンタージュのもう一つの頂点である。