海外版DVDを見てみた 第14回 ジョニー・スタッカートを見てみた Text by 吉田広明
Solomon
この作品にもイライシャ・クックが出演している。同じ俳優が二度起用されているのは彼のみ。ここでは彼は一度も裁判で負けたことのない刑事弁護士。スタッカートは彼の事務所に招かれ、彼が担当する事件の概要を聞かされる。平和主義活動家の女性が、夫をナイフで八回も刺して殺したというのだ。そのナイフはねじったような形態をしており、一刺しでも肉を抉り、筋を裂く、残虐な武器なのだが、それを八回もだぞ、とイライシャ・クックは人形に向かってその残虐行為を自らやってみせるのだ。容疑者である被害者の妻は、犯行当時どこにいたのか決して言おうとしないので、スタッカートに彼女への尋問をしてくれないかというわけである。

『キッスで殺せ』のクロリス・リーチマン

冒頭、スタッカートがマンハッタンの弁護士オフィスに向かう路上のショットを除いては、前半すべてがオフィスのセット一個で撮られるが、後半もまた留置場のセット一個で撮られている。入口にこそ階段があるものの、それ以外は檻にスツールが一個のみ、というまるで舞台のようなセット。そのスツールには、犯行に用いられた例のナイフが突き刺さっている。女(『キッスで殺せ』のクロリス・リーチマン)がナイフを椅子から抜いて床に置き、そこに腰かけ、尋問が始まる。親との関係、夫との関係。その中で、狩りやスポーツが好きで、粗暴な夫の性格が明らかにされてゆく。尋問するスタッカートを仰角、光と影の交錯の中に置き、一方尋問される女を俯瞰気味に、こちらは強い白光の中に置く。二人のクロース・アップの切り返しが激しさを増し、尋問もそれに応じていよいよきわどいところを突いてくる。そんな粗暴な夫があなたにどう接したのか。暴力は振るわなかったのか。そしてついにスタッカートは彼女に対して手を挙げる。夫はあなたにこんな風にしなかったか。平手打ちの音が留置場の空間に響き渡る。悲鳴を上げ、頬を抑えながらも、憎悪に満ちたまなざしをスタッカートに向ける女。女の手がゆっくりと椅子の下に伸び、あのナイフを握り締め、スタッカートに襲いかかる。

話自体は単純なものであり、およそ荒唐無稽と言ってしまってもいいくらいのものなのだが、俳優の芝居の密度、思い切って簡素な美術、ローキー照明、編集の正確なリズム等があいまって、場面を十分説得的なものにしている。これは矢張り演出の成果というべきであろう。かくしてEvil、Solomonと見てくると、カサヴェテスがTVではあれ、「ジョニー・スタッカート」で初めてプロとしての演出術を身に付けたのではないか、という推定もあながち間違いではないのではないか、と思えてくるのである。