海外版DVDを見てみた 第14回 ジョニー・スタッカートを見てみた Text by 吉田広明
ここしばらくイギリスのフィルム・ノワールを取り上げてきたが、今回は中休みで、アメリカのインディペンデント映画作家として名高い、ジョン・カサヴェテスによるTVシリーズ、「ジョニー・スタッカート」を取り上げる。『アメリカの影』を撮ったばかりのカサヴェテスが、そのために負った借金返済と生活費目当てで引き受けた雇われ仕事、と一般的には見なされ、カサヴェテス自身がそのようなイメージを積極的に流布させてきた。またこのシリーズが打ち切りになるに当たっては、スポンサーが、或るエピソードの内容に難色を示し、放映を止めさせるという事件が生じ、芸術的自由を拘束されるのに嫌気がさしたカサヴェテスがスポンサーを公然批判したという経緯もあった。かくして本シリーズは、カサヴェテス自身にとっても、その監督作のファンにとっても、ネガティヴなイメージのまとわりつく作品となってしまった。そのせいもあってか、アメリカでも長らく実際に見ることができない状況にあったようだ。ただし、フランスではこのシリーズの評価は高く、TV放映もされたし(1980年に、いくつかのエピソードを選択して)、一定の評価も得ていた。フィルム・ノワールがフランスで「発見」されたことを思い出させるが、ともあれ近年全作品がDVD化されて、実際に作品を見ての評価がようやくここにきて可能になった。そして実際に見ることができた作品は、カサヴェテス自身の否定的な言明をくつがえすに足る内容を備えていたのである。ちなみに2012年4月末に邦訳が出版されたトマス・ピンチョンの『LAヴァイス』(原著2009年出版)は、ヒッピー探偵を主人公とする探偵ものだが(物語の背景は1970年前後)、その中でジョニー・スタッカートは、サム・スペード、フィリップ・マーロウに次ぐハードボイルド名探偵とされている。ピンチョンはサブ・カル好きとしても知られているが、見る人は見ていた、ということなのだろう。

「ジョニー・スタッカート」のタイトル1

「ジョニー・スタッカート」のタイトル2

「ジョニー・スタッカート」とは
「ジョニー・スタッカート」はアメリカのNBCテレビジョンで、1959年9月10日から、1960年3月24日までの約七ヵ月間放映されたハードボイルド探偵もの。三十分番組で、全27話。もともとは、同じNBCで放映されていた「ピーター・ガン」が、ABCに移行することになり、その後継番組として構想されたものということだ。「ピーター・ガン」は、ブレーク・エドワーズが原案、製作、監督にあたったシリーズで、Mother'sというジャズ・クラブを根城にするクールな私立探偵を主人公とし(演じるのはクレイグ・スティーヴンス)、音楽も、それまでのオーケストレーション中心のものではなく、少人数編成のジャズをフィーチャーしていること(音楽はヘンリー・マンシーニ)、といった点を、確かに「ジョニー・スタッカート」も継いでいる。スタッカートの場合、グリニッジ・ヴィレッジにあるWaldo'sというジャズ・クラブが根城で、彼はそこでピアノを弾いてもいる。さまざまなエピソードで語れられている話を総合すると、スタッカートはコンサート・ピアニストを目指していたが、ジャズに惹かれるようになり、ジャズ・ピアニストになったものの、それで食っていけるだけの自信が持てず、金を稼ぐ手段として、免許を取って探偵稼業を始めた。第一話では、冒頭、ジャズの演奏をしているメンバーを一人一人映し出している(ちなみにメンバーは以下の通り。トランペット:ピート・カンドリ、ギター:バーニー・ケッセル、ドラム:シャーリー・マン、ベース:レッド・ミッチェル、ヴァイヴス:レッド・ノーヴォ、そしてピアノを弾いているのがスタッカートということになるが、Waldo'sにかかってきた依頼電話でピアノを離れる。スタッカートに代わってピアノを弾き始めるのが若き日のジョン・ウィリアムズ―『スター・ウォーズ』等の映画音楽で名高い―である。テーマ曲他を担当しているのはエルマー・バーンスタイン)。スタッカートはクロークに預けてあった拳銃を受け取り、ズボンのベルトに挟みこんで出てゆく。Waldo'sを事務所代わりにしている、という設定である。

「ピーター・ガン」はファースト・シーズンが58年9月から59年6月、セカンド・シーズンが59年9月から60年6月までNBCで放映。「ジョニー・スタッカート」とはセカンド・シーズンが丸々かぶっていることになる。NBCとしては、この二作が同傾向の作品であることを認知させた後、「ピーター・ガン」の視聴者をそっくり「ジョニー・スタッカート」に移行させるつもりであったのかもしれないが、「ジョニー・スタッカート」が途中で打ち切りになったこともあり、実際に後継番組となることはなかった。

「ピーター・ガン」を筆者はさして見ていない。Youtubeなどで見られるいくつかのエピソードを見ただけなのだが、印象は矢張り「ジョニー・スタッカート」とはだいぶ違う。「ピーター・ガン」がほぼスタジオ撮りであるのに対し、「ジョニー・スタッカート」は、ニューヨークの街中にカメラを持ち出している(ちなみにこのシリーズのためにカサヴェテス夫妻はハリウッドに移住するが、カサヴェテスらスタッフは、六週間に一回、ニューヨークの外景を撮りにニューヨーク・ロケに行ったということだ)。隠し撮り、というかゲリラ撮影なのだろうが、夜のニューヨークでは、仕込みとも思えない酔っぱらった浮浪者がふらふら画面に入り込んだりもしており、非常に生々しい印象を受ける。スタッカート自身がミュージシャンであることもあり、音楽関係の事件も多い。第一話Naked Truthも、デビューを控えた新人歌手がスキャンダル雑誌に脅され、音楽制作者からその解決を依頼されるものだし、他にもかつての名プレイヤーのカムバックを巡る事件(第二話Murder for Credit、これはカサヴェテス自身が演出、第十五話Collector's Item、これは『戦慄の調べ』のジョン・ブラームが演出)、バイトでデパートのサンタ・クロースを演じているミュージシャンが、やくざ者の兄によって強盗の片棒を担がされそうになる第十四話The Unwise Man、かつての名トランペッターが芝居小屋のドアマンに落ちぶれており、元妻の女優を脅迫している疑いがかかる第十六話Man in the Pit、そしてカサヴェテス降板を惹き起こした最終第二十七話The Wild Reedでは、周囲の人間によって麻薬漬けにされた大学時代の友人であるサックス・プレイヤーを描いている(スポンサーは麻薬中毒を扱っていることに難色を示したのである)。ミュージシャン関係の事件が多い、ということはただ設定上の特徴であるにとどまらず、シリーズ全体の性格を規定する重大な特徴でもある。「ジョニー・スタッカート」は、探偵ものとはいえ、あまり巨大な事件を扱う事は無く、撃ち合いのある「ピーター・ガン」とは違って、大きなアクションが起こらないのがむしろ特徴なのである。彼は銃やアクションではなく、もっぱら言葉によって、会話によって事件を解決してゆくのだ(この点後述)。