ロンドンとリリアン・ギッシュ Text by 大塚真琴   第2回 ロンドンⅡ
早川雪洲の映画もケヴィンは持っていて、『末裔』(The Last of the Line(Pride of Race) 14)という臆病者の息子がさも勇敢に戦争で戦ったかのように見せかける父親の映画を見せてくれた。雪洲がネイティヴ・アメリカンを演じていた。グリフィスの初期の映画にもこんな映画があった気がする。日本人が出演できる映画など少なかったと思うのに、雪洲がこのような形で主演していることが不思議でならなかった。
アニタ・ルースの映画が観たいというと、ケヴィンはダグラス・フェアバンクス主演の『ドーグラスの飛行』(American Aristocracy 16)という映画を見せてくれた。工場長の息子のダグラス・フェアバンクスがハット・ピン製造の社長令嬢に気に入られようと走り回る映画である。自動車を運転しかけたところで帽子が飛ぶ、それを動き始めている自動車から降りて走って取りに行き、帽子をかぶって再び動いている自動車に乗るという場面があった。この映画の中で麦芽ミルクをメキシコに送るという表現が何度も出てくるのは、この当時メキシコで革命が起こっていたからなのだそうだ。
ケヴィンが11歳の時に買ったフィルムの中にルピノ・レーンの映画があり、アル・パーカーという役者が出ていて、その後ケヴィンが俳優のエージェントでアル・パーカー・エージェントというのを見つけて、もしや同じ人ではと思い電話をしてみたところ、なんとその人で彼はジョン・バリモア主演の『シャーロック・ホームズ』(22)を監督してもいたそうである。ケヴィンの頭の回転の速さと素早い行動に頭が下がる思いをしながら、夜になってしまったのでおいとまをした。

一週間後ナショナル・フィルム・シアターにケヴィンのご家族とメアリ・ピックフォード主演の『雀』(26)を観に行った。皆で映画を観て、その後お茶をした。その現実が夢のようだと思い、その夢から離れた後の本物の現実との落差があまりにも大きくて、私はそれをどうやって受け止めたらいいのかわからなくて戸惑った。夢を見る癖がついてしまい、日本に帰ってきてから、同じような夢をついつい探してしまったけれど、そんなものはどこにもなかった。

数日後、ケヴィンのお家に再びお邪魔した。この時は映画を見せてほしいという学生らしき若い子が二人来ていた。メアリ・ピックフォードの映画が観たいと言うと、ケヴィンは『連隊の花』(Johanna Enlists 18)というピックフォードの映画を見せてくれた。題名からもわかるように戦意高揚のためのプロパガンダ映画である。ところがこれがプロパガンダというものを離れて、コメディ映画としてよく作られていると感じた。ピックフォードがさえない田舎娘を演じていて、その素朴さが感じいいのである。恋にあこがれて花びらを一枚一枚むしって占い、美容のためにと牛乳風呂に入るジョアナのあか抜けない様が笑いを誘う。
それからメイ・マーシュ主演の『Hoodoo Ann』(16)というこれもコメディを見せてもらった。メイ・マーシュがやはりさえない女の子を演じていて、何をやってもうまくいかないのである。
途中で奥さんが紅茶とパンケーキ、パウンドケーキとクッキーを持ってきてくれた。奥さんはお客さんが来るたびにお茶やお菓子の準備をしてくれているのだろうか。奥さんもすごい人だなと思った。
最後にチャプリンの『パリの女性』(23)を見せてもらった。途中でチャプリン本人がポーターの役で通り過ぎると、ケヴィンがほら本人だよと教えてくれる。
ケヴィンがすごく豊かな人だと思うのと同時にお家も豊かさを象徴しているようだなと改めて思った。壁には絵がたくさん飾ってあるし、家具も豊かさを象徴しているようだし、フィルムの収納してある部屋はフィルムの缶でびっしりだった。台所はひろくておいしそうな料理がたくさん作れそうで、ミニチュアダックスフントの犬もすごく幸せそうだった。