コラム 『日本映画の玉(ギョク)』 Jフィルム・ノワール覚書⑨ 『警視庁物語』の時代 その3   Text by 木全公彦
『血液型の秘密』
『警視庁物語 血液型の秘密』ポスター

『警視庁物語 血液型の秘密』
⑬『警視庁物語 血液型の秘密』(1960年6月7日公開)56分
[監督]飯塚増一 [脚本]長谷川公之 [撮影]三村明
[事件名]嬰児殺し事件 [事件発生場所]野方 [その他の主要なロケ地]、小石川(相澤医院)、高田馬場(伊浪酒店、東郊不動産、小料理「浮世」)、上野(ことぶき旅行案内所)新井薬師、谷中(轢死体発見場所)

保健所の野犬狩りが野良犬を追う。その犬はさきほどまで雑木林の中で何かを掘り起こしていた。野犬を捕えた職員は犬が掘り起こした嬰児の死体を発見した。警視庁第一課が駆けつけ、検死の結果、野犬が噛み殺したものではなく、青酸化合物による中毒死だと分かる。死後1~2日、誕生は2月末、血液はO型であった。刑事たちは、現場附近から見つかった嬰児のおむつの手拭いに書かれた酒屋の名前を手掛かりに赤ん坊の身元を洗いはじめた。

前作『深夜便130号車』で新人らしかぬ演出力を見せた飯塚増一の、例によって『聞き込み』との2本撮りの1本。題材は嬰児殺しである。前作で刑事役だった松村達雄は産科医、今井俊二は容疑者を演じる。とくに今井の参考人として警視庁に連行されてからの態度は憎々しいばかりで、ここから表題にもある血液鑑定へと移行する。殺された嬰児の父親であるかどうかの鑑定である。法医技師の片山滉が登場して、刑事たちが見守る中、今井の血液検査をする場面がクライマックス。関係者が見守る中での検査は現実にはあり得ないが、ドラマの盛り上げとしてはこれで正解。その結果は見てのお楽しみ。

須藤健と山本麟一が夜、雨の中で張り込みをする場面がある。雨というのは本シリーズでは珍しいが、その中での張り込みの大変さを描写することもちゃんと忘れてはいない。民謡酒場でこまどり姉妹が特別出演し、歌を披露するサービスシーンがある(おそらくセット)。なんだかセミドキュではなく、普通のプログラム・ピクチュアのようである。撮影はなんと三村明!