コラム 『日本映画の玉(ギョク)』 Jフィルム・ノワール覚書⑨ 『警視庁物語』の時代 その3   Text by 木全公彦
『遺留品なし』
『警視庁物語 遺留品なし』プレス

『警視庁物語 遺留品なし』
⑪『警視庁物語 遺留品なし』(1959年9月15日公開)67分
[監督]村山新治 [脚本]長谷川公之 [撮影]佐藤三郎
[事件名]交換手殺人事件 [事件発生場所]本郷 [その他の主要なロケ地] 丸の内(交換台のあるビル)、兜町(証券会社)、信濃町(明治記念館結婚相談所)、中野、有楽町(喫茶「パロス」)

とあるアパートの一室で、若い女性が絞殺されるという事件が起こった。被害者は電話交換嬢。聞き込みをするうち、被害者は投資信託を相当買いこんでいたこと、同じビルに勤めている男と交際中であったこと、医大の生理学教室で博士研究をしている男とも付き合いがあったことがわかった。彼とは結婚相談所を通じて知り合ったのだった。警視庁捜査第一課はその二人を洗うことから始めたが、やがて結婚を餌に女から女へ渡り歩き、金を目的に殺人を犯す冷酷な男の姿が浮かび上がる……。

村山新治のシリーズ6度目の登板。被害者が結婚相談所で男と知り合ったということで、捜査の過程で結婚相談所を初めとする関連風俗が点描される。とりわけ有楽町の地下にある私書箱のある喫茶店が現在では興味深い。また容疑者を乗せたというタクシーの女性運転手も当時としてはかなり珍しいのはないのか。ちなみにこれも長谷川公之の脚本の指定どおり。

捜査が進むにつれ、被害者の同僚で友人の東恵美子が交際している男こそが容疑者であり、さらに男が被害者から東恵美子に乗り換えていたこと、ニセ医者であったことなどを、東が知って愕然とする場面では、いつもは日活で母親役や良家の夫人役を演じる東のイメージを大きく裏切り、結婚を夢みて裏切られる女性の哀しさを演じていて、男に裏切られた女心がなかなか泣かせる。とくにラストシーン、捜査員が出払い薄暗くなった捜査本部から神田隆に送りだされる場面は切ない余韻を残す。

そのほか第4話『白昼魔』で胸を病んだ殺人犯を演じていた木村功が再登場。一度犯人を演じた俳優は二度犯人役を演じないという鉄則は本作でも厳守される。また八名信夫がノンクレジットでチョイ役出演。

劇中、東恵美子の口から容疑者のアリバイとして証言される「パール座で映画を見ていた」云々の件は、第15作『警視庁物語 不在証明』(1961年、島津昇一監督)でも重要なアリバイ工作として再度使われることになる。