コラム 『日本映画の玉(ギョク)』 Jフィルム・ノワール覚書⑧ 『警視庁物語』の時代 その2   Text by 木全公彦
『白昼魔』
『白昼魔』
④『警視庁物語 白昼魔』(1957年2月18日公開)51分
[監督]関川秀雄 [脚本]長谷川公之 [撮影]福島宏
[事件名]外人貿易商殺人事件 [事件発生場所]赤坂 [その他の主要なロケ地]丸の内、有楽町、日比谷(ドライブイン)、大阪・御堂筋、新宿(トルコ芳泉)、田村町(現・西新橋)、西銀座、深川、江の島

赤坂のとあるナイトクラブ付近で高級車が盗まれ、持ち主の外人貿易商が射殺されるという事件が起きる。警視庁捜査本部の現場検証で、犯人が消音銃を使ったこと、現場に残された血痰から結核を患っていること、車からシネスコ・レンズ付きの8ミリカメラが盗まれたことなどが分かる。ニュースを聞いてタクシーの運転手が目撃証言をし、犯人は大阪訛りがあったという。一方、偶然大阪で高級車窃盗団の一味らしい男が検挙され、林刑事が大阪へと向かった。

シリーズで初めて東京を離れて遠方(大阪)に出張する。50分足らずの尺の作品でそれが許されたのは、シリーズとしての信頼ができたためだろう。白昼の御堂筋でのカーチェイスは、『魔の最終列車』のやや作り物めいたカーチェイスよりもドキュメンタルで迫力満点。特筆すべきは冒頭で珍しく犯人の顔を映していること。結核病みで自暴自棄になって犯罪に走る青年を木村功が演じているが、その姿は『野良犬』(1950年、黒澤明監督)で木村が演じた、盗んだ拳銃で犯罪に手を染める復員兵の姿がだぶる。

また、消音銃、シネスコ・レンズ付き8ミリカメラ、それに模写電送なる最新機器が登場するのも特徴のひとつ。模写電送とはなんぞやと思って見ているとFAXのことであった。