コラム 『日本映画の玉(ギョク)』 テレビ・ディレクターが撮ったピンク映画   Text by 木全公彦
あらすじ
『裸虫』プレス
プロローグ。
どこか田舎の海岸。明け方、壮年の男が和太鼓を叩いている。それをじっと見つめる少年と少女。岩礁にナイフを手にした青年の全裸死体が打ち上げられている。青年には左手の薬指と小指がない。かたわらには脱ぎ捨てられた女性の衣服。この導入部にクレジットがかぶさる。

第一章
新宿歌舞伎町の早朝。さきほど岩礁に打ち上げられていた死体の指なし男が自転車で牛乳配達をしている。信介(朝倉宏二)19歳。左手の薬指と小指がないのは、 あとから分かるのだが、田舎から上京して働いた工場で 指を機械に巻き取られたためだ。そこで一人の少女が彼から牛乳を買う。少女の名は真紀(大須賀美春)。17歳である(そうは見えない!)。都会の生活の中でちょっと太めの自分の体を売り、バイタリティ溢れる生活を送っている。ある日、街中で真紀を見かけた信介は、真紀を買う。信介の視線で真紀の豊満な体の一部や目、唇などが超クローズアップで映し出される。しかし、信介は指のないコンプレックスからなのか不能で、役に立たない。真紀の哄笑に追いたてられ身をすぼめて立ち去る信介。

第二章
しがない牛乳配達員に見切りをつけた信介は、今は街の愚連隊の一人である。インチキ宗教・天地教のお札を押し売りしてボスから小遣いをもらい生活している。信介の兄貴分はヤク中である。ある日、田舎から上京してきた中年女(渡辺富美子)が出稼ぎに東京に出たまま行方の分からなくなった夫の居場所を訪ねて、天地教の教祖(西国成男)に相談にくる。教祖というのは片足である。女は夫を訪ねて飯場を探しまわったという。教団からの帰途、女はまた夫を探して代々木あたりの飯場を歩く。信介はその様子を見て、ふと情欲を覚え、女を襲う。だが不能に変わりにない。女の軽蔑した笑いに信介は殺意を覚え、手にしたナイフで女を刺し殺してしまう。 その夜は天地和合と称する天地教の祭りの日だった。般若の面をかぶった教祖が和太鼓を打ちならす中、祭りは酒席から次第に乱交へとエスカレートしていく。女の中に真紀の姿があった。信介の気分は高揚し、真紀と交わる。信介は不能から解放されたのだ。

第三章
真紀は教祖をたらしこんで麻薬を奪う。だがそのことはすぐに愚連隊に知るところとなり、真紀は仲間の娼婦たちにリンチを受け小指をつめられる。真紀の小指のない手をいとおしむように唇をよせる信介。二人は信介の田舎の漁村に逃げることにした。漁村はすっかり廃村になっていた。だが二人は幸せだった。岩場で互いに服を脱ぎ捨て裸になって抱き合う二人。つかのまの幸せを謳歌する。だが恐ろしい真実が明らかになる。真紀の体の中には教祖との不倫の種が芽生えていた。しかも教祖は行方不明だった信介の父親らしい。さらに工場現場で信介が殺害した中年女が真紀の実母だったのだ。二人の若い裸虫にはもはや生への執着は失われていた。夜明けの砂丘に燃えさかる松明。岩礁に漂う二人の青白い死体。お面をかぶって渚をはねまわる男の子と女の子の姿がある。彼らもまた幼い裸虫だ。