コラム『日本映画の玉(ギョク)』谷口登司夫が語る三隅研次   Text by 木全公彦
細かいカット割り
――谷口さんのほうが年下ですよね。それでもやはり「オッサン」ですか。

谷口オッサンですね。まあ三隅さんの特徴というと、喫茶店のハシゴと、ちょっと変態的にしつこいところと――まあ普段はとても温和ないい人なんですよ。嫌味も言わんし、ユーモアもあるし。喫茶店のハシゴなんか、わたしら一杯飲めば十分なのに、あの人は3杯でも4杯でもハシゴするから、それに付き合わせられるのはたまらんですわ。

――喫茶店では仕事の話はされないんでしょう。

谷口もっぱら世話話です。シベリヤに抑留されて、そのときに人間が変なふうに歪んでしまったとは、よく言うてました。僕は「生まれつきでっしゃろ」と言ってましたけどね。笑ってました。

――三隅さんがカットを「長い」と言われるのは、殺陣の場面に限らないんですか。

谷口全体的にそう。座頭市が歩いているところなんかも、僕は歩いている後ろ姿をずっと撮っているのも好きなんですが、三隅さんはそれを見ると「まだあるんかいな」と言う。そういうなら最初から撮るなと言うんですけどね。それで言い合いになる(笑)。

――カットが短いということで、完成尺が短くなってしまうということはありましたか。

谷口それはありません。計算して撮ってるわけですから。

――三隅さんみたいにカットの細かい監督って大映京都にはほかにいらっしゃいますか。

谷口ちょっと分からんなあ。あんまり三隅さんのカットが細かいから、撮影中に撮り終わったものから編集してダビングしはじめていましたけど、そういう作業のかけもちがあったのは三隅組だけでした。

――当時は封切り日が2週間後とか決まっているから大変ですね。

谷口三隅さんの場合は撮影が延びることが多く、こっちにずれこんでくる。そうするとこっちが徹夜せんならんということになる。だからいつも追っかけでした。

――フィルムの使用量についてですが、撮り方からすると森さんのほうが三隅さんよりも経済的ではありますね。

谷口そうです。森さんの場合、立ち回りを撮るときに編集で同じカットを使い回すことがあるんです。だからよく見ると絡みの役者が2回死んでることもある(笑)。そういうところも経済的。

――三隅さんの場合はそういうことはないですか。

谷口絶対にない。