コラム 『日本映画の玉(ギョク)』 近藤明男が語る三隅研次・増村保造のことほか   Text by 木全公彦
三隅研次監督
火事と雪降らし
――これは全篇セットですね? 金沢ロケはないんですか。

近藤セットですね。金沢ロケはありません。雪の中で若尾(文子)さんが倒れて天知(茂)さんが助ける場面は、信州の山でロケしたんじゃないかな。それ以外は大映東京撮影所に組んだセットです。だから天候に左右されることもなく、別にやりにくいということもなく、なかなか粘って撮っていました。ラストに金屏風が登場しますね。スタッフが準備した金屏風を三隅さんが気に入らなくて、3時間、4時間、代わりの屏風が用意できるまで撮影が中止になりました。僕は増村さんにいちばん付いているんだけど、増村さんではそんな経験したことないなあ。僕はほかにも市川崑さん、吉村公三郎さんとかいろんな監督に付いているけど、そういう記憶がない。確かに増村さんは粘るし、怒ったりはするけど、小道具待ちで撮影がストップすることはない。増村さんは天気待ちもしない。三隅さんはあの頃、40代だったと思うけど、もう大監督の風格でしたね、体も大きいし。「用意スタート!」と言って、最後は「カット!」というんだけど、それが「カット」に聞こえなくて「キャット」に聞こえる。スタッフは陰で「キャットのおじさん」と呼んでました(笑)。

――役者に具体的に芝居をつけたりするんですか。

近藤それはないですね。

――場面の説明はされますか。

近藤それもない。あれはベテランの若尾さんだし、相手役は三隅さんお気に入りの天知茂さんだし、そんなに細かいこと言わなくていいという感じでした。

――火事で金粉が舞い上がる場面がありますね。以前、小林節雄さんに別件でお会いしたとき、「あれは市川崑さんの『炎上』で宮川一夫さんが金粉を散らしたことを意識なさったんですか」とお聞きしたら、「そういう気持ちはあったけど、あまりうまくいってない」とおっしゃっていました。あれはどうやって撮ったんですか。

近藤あれと火事の件はB班が撮りました。だから井上芳夫さんですね。若尾さんが雪山で倒れているところもそう。撮影中に井上さんが交通事故に遭ったことは覚えているなあ。足をひきずって帰ってきました。とすると金粉が舞う場面は小林さんが撮ったんじゃないな。誰かに確認した方がいいかもしれませんね。ただ火事の場面は三隅さんが気に入らなくて撮り直しをした覚えがあります。

――中村玉緒さんが赤ん坊を背負っていて、雪が落ちてきて赤ん坊が死ぬ場面はいかがですか。

近藤雪降らしは僕もやりました。最初なのに勘がいいって。二重に乗ってカポックでできた雪をカゴに入れて雪を降らしました。下のほうは塩ですね。玉緒さんの背負った赤ん坊が死ぬ場面では雪を落とすのも僕がやりました。