コラム 『日本映画の玉(ギョク)』 井上昭が語る三隅研次   Text by 木全公彦
シリーズを撮るということ
――井上さんの『続・酔いどれ博士』(66年)と『酔いどれ波止場』(66年)は、三隅さんの第1作『酔いどれ博士』(66年)を受け継いだ作品です。

井上会社からやれと言われたんだけど、三隅さんからは特に何もなかったと思います。聞きたいときは直接聞くんだけど、特にそうした覚えはないな。大体僕らは大映京都のプログラム・ピクチュアのシリーズをローテーションで順繰りにやらされてきたから――森さん、三隅さん、徳さん、池ちゃん、それでシリーズがマンネリになると、大体僕のところに来る。表現にクセがあるけど、ある程度あいつがやるならこうなると分かっているわけです。まあそれでもシリーズがマンネリになってきたから、ちょっと毛色の変わったのもいいんじゃないか、ということですね。

――シリーズものを撮るときは、前の作品を見たり、脚本を読んだりするんですか。

井上僕はしますね。ただその通り撮るわけではないですから。

――キャラクターや設定だけを引き継ぐわけですからね。

井上そうです。そこからどれだけ変化をつけられるかですね。

――井上さんは事前に俳優さんにテーマを説明される方ですか。

井上します。僕はストーリーよりもテーマ主義ですから、それをなんとか伝えようと、クランクイン前にビデオや資料を俳優さんにいっぱい見せる。この間も若村真由美君が夜鷹をやったんだけど、その前に溝口さんの『西鶴一代女』(52年)のビデオを見せて、これでいくんだと言ってね。雰囲気だけでもつかんでもらえればいいんです。まあ昔は次から次へでそういった時間もなかったですが、僕はその時分でも衣裳テストだけはやっていました。

――三隅さんはどうでしたか。

井上毒舌ですけど口べたの人ですからね。相手が年上でも年下でも「おっさん、おっさん」ゆうて。僕ら三隅さんが亡くなったときもっと年上かと思いましたもん。どうだったかねえ。手足が大きくてね。僕ら末端肥大症やと悪口言ってました。また汗かきで掌が油っぽいです。その油っぽい大きな手で人の顔をツルリと撫でるんです。そういうときは三隅さんが上機嫌なとき。ベタベタしてて気色悪いんですけどね(笑)。

2006年5月16日 松竹京都撮影所にて
取材・構成:木全公彦