コラム 『日本映画の玉(ギョク)』 駅弁才女と呼ばれたマルチタレント   Text by 木全公彦
正直に申し上げて参りました
当の中山千夏といえば、『お荷物小荷物 カムイ篇』を最後にさっさと女優に見切りをつけて女優業は廃業し、参議院議員も一期務めたのち、次の選挙で落選すると、これもさっさと見切りをつけたようにも見える。だから彼女の手による小説「ダブルベッド」が、1983年に荒井晴彦脚本、藤田敏八監督で映画化されたときはびっくりしたし、あの独特の声と投げやりなすねたしゃべりに色気を感じていた者としては、アニメ『じゃリン子チエ』(81)でチエの声をアテていたのは嬉しかったのである。

また、聞き書き「タアキイ 水の江滝子伝」(新潮社、1993年刊)を読んだときは、そのあまりに達者で正攻法な書き方に驚いたものである。そのとき、「あっ」と思ったのが、竹中労が早くから指摘していた中山千夏を特徴づけている伝法な口調が水の江滝子か宮城千賀子に似ているということだった。ああ、なるほどね。「独占!女の60分」か。さすがは竹中労。

で、現在の中山千夏は、といえば、スキューバダイビングを楽しみ、パソコンのオンラインゲームにハマり、疑似恋愛した経験を「妖精の詩」(飛鳥新社、2006年刊)として上梓し、「古事記」を研究し、ツイッターもやっているという――いったい、どこまで人生に貪欲なんだか。ショコタンの昭和版本格派といってもよいのか。かなりたとえが違うか。女性版ボリス・ヴィアン? これも違うか。これで絶世の美女だったりすれば、同性でなくとも嫉妬の対象になりかねないが、そうじゃないところがいい(ってあえてフェミニストに怒られそうなことも呟いてみたい気がする)。それでも、きっぱりと言いたいのだが、わたしゃやっぱり駅弁が食べたい!

中山千夏Twitter

「チナチスト」