6月のCS・BSピックアップ
■  チャンネルNECOの「鈴木英夫特集」の最後を飾る「その場所に映画ありて 鈴木英夫の世界part3」は、全部で5本の作品を放映する。

製作年代順に、『殺人容疑者』(52)、『危険な英雄』(57)、『社員無頼・怒号篇』(59)、『社員無頼・反撃篇』(59)、『悪の階段』(65)というラインナップ。

『危険な英雄』は石原慎太郎映画主演第二作のスリラー。出世と名声のために手段を選ばないマキャベリストの新聞記者の野心と失墜を描く。同傾向の『非情都市』ともにもっとも鈴木が好んだテーマである。いつかフリッツ・ラングの『口紅殺人事件』(56)やビリー・ワイルダーの『地獄の英雄』(51)と4本立てで上映したいもんである。そういえば、鈴木英夫の資質もどこかハリウッドのドイツ人的な感じがする。

『社員無頼』2部作は、鈴木英夫の俳優イジメの例として挙がる、佐原健二が地獄の日々を送った撮影だったといわれる作品。同時期の東宝のサラリーマン映画の能天気さとは比べ物にもならない憂鬱さが漂うのは、なにも池野成の(ワンパターンである)重低音の映画音楽のせいばかりではない。もっとも同時期の東宝には会社の乗っ取りとか社内謀術とかを描いたサラリーマン映画がなかったわけではない。『天下泰平』2部作(57、杉江敏男)とか『重役の椅子』(58、筧正典)とか『七人の敵あり』(61、杉江敏男)とかいった作品である。これすべて源氏鶏太が原作で、『社員無頼』も原作が源氏鶏太だったりするんだが(というか東宝サラリーマンものの大半の原作者は源氏であるが)、『社員無頼』の息苦しいまでの陰鬱さは、すべてが解決したラストでも解消されないまま澱のように沈殿していくところにある。それは佐原健二の憂鬱そうな顔や池野成の音楽ばかりではなく、逢沢譲のローキーのキャメラのせいもあるだろうし、上原謙や有島一郎の容赦のない悪役ぶりの憎々しいというよりも嫌悪感さえ感じさせるところにもあるのだろうが、全編が悪夢のようでもある。このすっきりしない、イヤな感じこそが鈴木英夫の魅力でもあるのだが、逆にそれがためにヒット作が『続三等重役』(52)を除いてなく、現在までほとんど評価されずに無視されてきた理由だろう。

『悪の階段』はフランスのギャング映画の匂いのする傑作。カラー/スコープが全盛であった時代でもモノクロ/スタンダートに固執したこだわりは、スターがごろごろいる大東宝の撮影所システムの下なら、もうちょっと派手なキャスティングをしなくてもいいの?という演技重視の地味なキャスティングにも発揮されており、そんなところからも鈴木英夫が会社サイドから敬遠された理由が透けて見える。原作は南條範夫の「おれの夢は」。同じ原作を映画化した(実際はVシネ)西村潔監督、林美里主演の『マドンナの復讐』(91)が激しくツマラナイことを考えると(いくらご贔屓の西村でもあってもひどすぎる!)、『悪の階段』は珍しく鈴木英夫本人が書いた脚本、演出の巧妙さが分かるというものである。

そして『殺人容疑者』(52)。これこそ今回の最大の目玉であり、超レア作である。すでに「映画の玉」の鈴木英夫に関する連載でも触れているが、滅多に観ることができず、フィルムの存在さえ危ぶまれていた作品なのである。内容やキャストもキネ旬の「日本映画紹介」にも掲載されておらず、「共同監督」としてクレジットされている「船橋比呂志」なる人物についても謎、という映画。にもかかわらず、これは丹波哲郎の主役デビュー作であり、土屋嘉夫のデビュー作でもあり、脚本構成に長谷川公之を迎えたセミ・ドキュメンタリーの先駆的作品としてきわめて重要な映画なのである。内容についての詳述は避けるが、オールロケは『裸の街』(48/ジュールズ・ダッシン)の影響が大きく、クライマックスは『第三の男』(49/キャロル・リード)から発想されたものとだけ書いておこう。製作は現在の電通テックの前身(だと思う)である電通DF。新東宝配給。共同監督の船橋比呂志の本名は蜷川親博。彼の正体については近いうちに明らかにするが、実在する演出家・脚本家・車関連のライター・小説家・サファリラリーのドライバーである(どう?興味あるでしょ!)。

■  今月はCSの各社共同企画も多い。まず「巨匠・今村昌平の軌跡」はNECO衛星劇場東映チャンネルの共同企画。肖像権の問題をクリアできないとされる『にっぽん戦後史・マダムおんぼろの生活』(70)を除く劇場公開全作品を放映する。カンヌ映画祭で2度もパルムドールを取ったとはいえ、そのような海外からの権威づけに飛びつくマスコミではあるまいし、カンヌが今村を発見したのは遅すぎて、今村の全盛期はとうに過ぎていたことは改めて指摘するまでもない。そうはいっても凡百の映画よりは遺作の『赤い橋の下のぬるい水』(01)まで最晩年の作品でもじゅうぶんおもしろい。よもや1作も観たことのないCSの映画チャンネル視聴者はいないと思うが、スコセッシが尊敬しているというお墨付きがないと関心がないかもしれぬので、これだけは観とけ!という作品を最低限挙げておく。どれも人間のエゴがギラギラ剥き出しになった傑作ばかりである。

NECOの放送

・『果てしなき欲望』(58)
・『豚と軍艦』(61)
・『にっぽん昆虫記』(63)
・『赤い殺意』(64)
・『人間蒸発』(67)
・『神々の深き欲望』(68)

衛星劇場

・『復讐するは我にあり』(79)


■  もうひとつの共同企画は、日本映画専門チャンネル時代劇専門チャンネルの共同の「没後10年 勝新太郎特集」。日本映画専門チャンネルでは、数ある勝新のヒット・シリーズから『兵隊やくざ』シリーズ全9作と『悪名』シリーズ全16作、『ど根性物語』シリーズ全2作、そして『かんかん蟲は唄う』(55/三隅研次)と『あなたも私もお年頃』(56/松林宗恵)といったラインナップ。『兵隊やくざ』シリーズと『悪名』シリーズはDVDも出ているし、ビデオレンタルもあるし・・・と安心していてはイケマセン。入手しやすいのは共に大半を占める大映版のみ。それぞれの最終作『兵隊やくざ 火線』(72/増村保造)と『悪名 縄張り荒らし』(74/増村保造)は勝プロ製作、東宝配給で、現在は東宝が権利を管理している作品。東宝がこれだけDVDにするとは思えないので、とりあえず録画しておこう。シリーズ最終の疲れが見える『火線』に比べて、『悪名』第1作(61/田中徳三)のリメイクである『縄張り荒らし』はモートルの貞を田宮二郎から北大路欣也にバトンタッチしたもののまた別の映画としてじゅうぶんおもしろい。個人的にはこのコンビも悪くないと思う。

時代劇専門チャンネルは勝新が『悪名』でブレイクする以前のレア映画ばかりを集めて放映する。気のせいか安田公義作品が多い気がするが、これは未見作ばかり。とりあえずは要チェック。


■  チャンネルNECO衛星劇場の共同企画では、先月に引き続き「生誕100年記念 井上靖の世界」を放映する。NECOは『あした来る人』(55/川島雄三)、『あすなろ物語』(55/堀川弘通)、『氷壁』(58/増村保造)、『しろばんば』(62/滝澤英輔)、『憂愁平野』(63/豊田四郎)の5本。良作ばかりのこの中で1本選ぶなら『氷壁』ですかね。これが日本映画で数少ないヴィスタヴィジョン方式の映画であることを指摘しておこう。それと『憂愁平野』は山本富士子がどうしても出演したいといって出演した他社映画で、5社協定に引っかかったという、画面外のゴシップ的な問題作。そのおかげで山本富士子は映画生命を絶たれ、今に至るまで映画での出演作はない。『憂愁平野』は悪くはない出来だが、かといって豊田としては並の下ぐらいの出来で、この程度の映画で干されることになった山本富士子がかわいそうである。


衛星劇場からは、『渦』(61/番匠義彰)、『河口』(61/中村登)、『霧子の運命』(62/川津義郎)、『離愁』(60/大庭秀雄)、『猟銃』(61/五所平之助)の5本。この題名の並びだけで今回の井上靖特集の裏テーマが分かる人、あんたはエライ! そう、すべて岡田茉莉子の松竹出演作なのである。松竹が運営している衛星劇場だから松竹作品が並ぶのは当たり前だと思っているあーた、そこのあーた。あーたですよ。おや、犬でしたか。これは失礼。なにも衛星劇場ばかりではないのだ。NECOで放映される『あすなろ物語』も岡田茉莉子主演なのである。東宝作品にかかわらず。もちろん岡田茉莉子は東宝デビューし、東宝で活躍したあと、松竹に移籍した女優ではあるけれど、一人の女優が決して一人の作家の決して多くはない映画化作品(全40本)に5月に放映した『ある落日』(59/大庭秀雄)も含め、これだけ出演している例はない(全7本。ゲスト出演や脇役は一切なくてすべて主演または准主演)。井上靖のご指名なのか、お二人に交流があったのか、定かではない。もうすぐ出版されるという岡田茉莉子の自伝にはそのあたりの事情は書かれているのだろうか。とりあえず『河口』と『猟銃』は必見(衛星劇場の「渋谷実特集」では岡田茉莉子主演の『バナナ』(60)が、有馬稲子主演の『女の足あと』(56)とともに放映。まさに茉莉子タン月間!)。

■  日本映画専門は延々続く「市川崑の映画たち」から遂に激レア作品が放映されるので要チェック。とりあえず放映作品を挙げておくと、『果てしなき情熱』(49)、『暁の追跡』(50)、『東北の神武たち』(57)、前出勝新特集の『ど根性物語・銭の踊り』(64)、それに再放送ぶん5本を含むラインナップ。ビデオもDVDも出ていない『果てしなき情熱』もレアだが、いうまでもなく激レアなのは『東北の神武たち』(57)である。上映プリントがあるのはフィルムセンターだけだが(もちろんネガは東宝が所有)、すこぶる野心作であるにもかかわらず、その野心の核部分がちょっとマズいんじゃないかということで、いわゆる自主規制しているんじゃないかという作品なのですね。この手の自主規制作品は東映にはやたらあるけど、「清く、正しく、美しく」の東宝には珍しいのだ。それでなにが野心的かといえば、59分という半端な時間(本作は『鬼火』から始まる中篇映画のダイヤモンド・シリーズではない)、東宝初のスコープ(東宝スコープ)(注1)、パースペクター立体音響なる擬似の簡易ステレオ音響(注2)、それに現在上映・放映するときに最も問題になるだろうと思われる内容――つまり、深沢七郎の原作そのものにあるんだね。それを描くために大スターではないにしろちゃんとした俳優たちを大勢起用しているのに全員髭もじゃで誰が誰だか分からないというすごさ。傑作か失敗作かという判断はこのすごさの前に停止する。本当はシネマヴェーラ渋谷の「妄執・異形の人々」特集でいつか上映しようと思っていた作品なのである。まあ、いろいろメンドーなこともあるので、どういう内容なのかは見て判断してくれ。

注1:当時の東宝スコープは20世紀FOXのシネマスコープとは異なる自社開発品。こんなヘンテコ映画を自社開発の記念すべきスコープ第1作にするという東宝は、今と違ってチャレンジャーだったんだねえ。
注2:東宝がスコープを採用する際、セットでMGMの音響企画を採用したもの。 詳しくはこちら


■  衛星劇場の「ニッポン無声映画探検隊 第15回」は、『沓掛時次郎』(29/辻吉朗)と『涙の愛嬌者』(31/野村浩将)。前者は今ではすっかり忘れられた監督になった辻の残存している数少ない作品で中で最も傑出した作品。一時は傾向映画で鳴らした辻だが、本作は長谷川伸の名作を大河内伝次郎が演じる。彼の日活復帰第1作でもある。しっとりとした情感がいい。後者は『与太者』シリーズ以外で残存しているサイレント期の野村浩将の数少ない作品の1本。個人的にはサイレント期の野村浩将作品の中ではもっとも好きな作品である。「野球映画」(草野球だけど)として観るのもいい。蒲田撮影所の子役たちを楽しむのもいい。ところでどうして高尾光子は大きくなって目を整形したんでしょうか?松竹が当時刊行していた雑誌の「蒲田」だったか「大船」だったかにその経緯が載っていた。脱線ついでに、書いておくと、昔は美容整形というのは隠すことではなかったらしく、記者によるゴシップだけではなく、映画会社公認の話題や本人の談話として載っていて驚くことがある。有名な美容整形外科に十仁病院という病院が新橋にあるけれど、あれは確かその十仁病院だったと思う。神保町の古本屋キントト文庫で、戦前の十仁病院の4ページからなる広告チラシを見つけたのね。裏を見てびっくり! 「私もこの病院でここを整形しました」と映画スターや歌舞伎俳優等が6~8人並んでいたのである! いちばん目のつくところに写っているのはなんとあの入江たか子じゃありませんか!! ほかにも覚えていないけど男女問わずセレブがこの病院でどこを整形したのか顔写真付きでコメントしている。これ、ほしい~、ほしい~、と思ったが、値段を見ると確か2万円はしたのではなかったろうか。貧乏な、それでいてただスケベなだけのおっさんはその値段におののき、立ち震え、結局帰宅して悶々と2、3日考え込み、ようやく決心して再びキントト文庫に向かったのだった。しかし・・・すでにお買い上げとのこと。泣。我ながらバカだねえ~。ちなみに入江たか子も目を整形したとかで、今も昔も女性は目の美容整形が圧倒的に多いらしいが、この頃の主流は目の下の脂肪を切除だか吸引だかして目の腫れぼったさを取る手術。前述の高尾光子もそのパターン。だが整形しても子役は大成しないというジンクスを破れず。整形後、大人になった彼女がチョイ役ではなく、堂々の主演として見られるのは異色のビルマ映画史上初トーキー『にっぽんむすめ』ぐらいなもんでしょうか。以上、大脱線。


■  NECOの落穂拾い。『女殺し油地獄』(57/堀川弘通)、『無法松の一生』(65/三隅研次)、『ぽんこつ』(60/瀬川昌治)の3本は必見。とくに『ぽんこつ』は低予算ながら映画を作る喜びがあふれでている等身大の若さが溌剌する好編。佐久間良子の手が届きそうで届かぬ感じの清潔な空気感は、しばらくすると不幸な女の色香へ変わっていくことになるのだが、ともかくセーラー服がよく似合う可憐な花のような女優ぶりを観られる。

■  衛星劇場の落穂拾いとして、「リクエスト・アワー」から推薦順に。

・『闘ふ男』(40/石田民三)
・『悪の紋章』(64/堀川弘通)
・『裸足の青春』(56/谷口千吉)
・『頑張れ!日本男児』(70/石田勝心)

以下ひとやまいくらで『図々しい奴』(61/生駒千里)、『肉体の暴風雨』(50/佐藤武)、『二死満塁』(46/田口哲)。めっけものがあればいいんだが。


■  東映チャンネルでは、今月は降旗康男監督の特集。まもなく公開される新作『憑神』の記念のための特集放映であるが、今回放映されるのは、『非行少女ヨーコ』(66)、『新網走番外地・流人岬の決斗』(69)、『日本女侠伝・真赤な度胸花』(70)、『任侠興亡史・組長と代貸』(70)、『日本の黒幕(フィクサー)』(79)、『冬の華』(78)、『極道の妻たち・三名目姐』(89)、『蔵』(95)、『鉄道員(ぽっぽや)』(99)、『ホタル』(01)の計10本。この人も東映東京撮影所時代からフリーになってからでは、イメージがすごく違うというか、たとえばそれは角川春樹にレイプされて、プロとしてたくましくなった(それは「うまくなった」とは同意義ではない)佐藤純彌よりもさらに不思議な位置にいて、東映を実質的に離れた健さんの御用監督として着実に地位を上げていって今や東映の巨匠。というかそういう扱いをされている感じがぷんぷんするわけね。実は今回放映される作品は1本を除いて全部評価できないのだが、たとえば数年前に井土紀州と一緒に観た『真っ赤な度胸花』は、井土は降旗の演出はどんくさいといっていたが、脚本を書いた笠原和夫の構成力にはいたく感心していたのであった。であるなら1本を除いての、その必見の1本こそここで名前を挙げなくてはならない。それは『非行少女ヨーコ』である。ご贔屓の城野ゆきが出ているからいいというのではない。当時の若者の気分を反映した異国への脱出願望がアンニュイに描かれた佳作である。60年代後半の日本映画における悪女であり、ファム・ファタールであり、小悪魔であった緑魔子。本作は、梅宮辰夫と共演した『夜の青春』シリーズとともに彼女の東映時代を代表する映画である。ちなみに彼女のデビュー作である『二匹の牝犬』(64/渡辺祐介)はシネマヴェーラ渋谷で9月に上映予定。

東映チャンネルでは、余裕があれば『東京アンタッチャブル』(62/村山新治)と『東京アンタッチャブル 脱走』(63/関川秀雄)もチェックしておきたい。脚本はいずれも長谷川公之。『警視庁物語』シリーズのスタッフである。

8月には主人と私に投票してください、と街頭演説をするのであろうか>若尾あややは。「衛星劇場」の「メモリー・オブ・若尾文子 Part24」は、美しきピカロたちのコン・ゲームの傑作『女系家族』(三隅研次)、『東京の瞳』(58/田中重雄)、『慕情』(54/佐伯幸三)の3本。参議院選までもっと傑作やボディダブルでもいいからエロエロな映画を放送して応援するっていうのはどう? 俺なんか当選の暁にはあややに聞きたいことがあるんだよね。大映倒産直前、永田ラッパの企画でスワッピング映画が企画されたって本当ですか? 昔のエロ実録週刊誌を読んでいたら書いてあったので気になって気になって気になって気になって・・・夜も眠れず、朝も眠れず、あと全部寝てるんだけどね。黒川紀章との「銀座の恋の物語」はどう見ても黒川先生「銀座の鯉の物語」という感じでしたがね。酸素不足で口をパクパクやっている鯉。またやるのかしらん? 個人的にはあややには陸軍の看護服を着て街頭演説をしてもらいたい。それで夜を徹した開票を聞いて、おもむろに「西が勝ちました」と言ったりして。ああ、眠れない。眠りたいんだ。西、葡萄酒を取ってくれ・・・・、あるいはズブ濡れの着物姿でマスコミを回ったりしてね。参院選が楽しみである。ポカーン。しかし黒川紀章、あんたやっぱ名古屋人だわ。