9月のCS・BSピックアップ
先月に引き続き、一周忌を迎えた石井輝男の話題から。石井プロダクションの報告によれば、身内のいなかった石井監督の墓をどこにするかという段になり、監督に縁の深い網走市に相談したところ、財団法人網走監獄保存財団(博物館網走監獄)が協力してくれることになり、博物館敷地内に映画『網走番外地』に関する石碑と展示コーナーを設置することになったそうである。8月5日に納骨と一周忌法要を済ませたあと、翌6日には監獄博物館の門前に出来た「映画『網走番外地』石碑」の除幕式が行われたという。

監督の墓は、網走市潮見墓園に建立された。墓碑銘は高倉健の手による。墓の左右には石井輝男全映画作品の題名を刻んだというから、こりゃ、相当に笑える。なんといっても『女体桟橋』やら『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』やら『ポルノ時代劇 忘八武士道』やらの名前が墓石に彫ってあるのだから、墓参に訪れた人から顰蹙を買うことは必至。まったく亡くなっても人騒がせな人なんだから!

人騒がせといえば、世間やマスコミのみならず、社内の助監督組合からも総スカンを食った、いわゆる《異常性愛映画》が海を渡り、海外でも物好きの映画ファンに持てはやされるカルト映画になるとは誰が想像しただろう。晩年の石井監督も「なんででしょうかね」なんて、あの大林宣彦そっくりな柔和な顔と声で言っていた。かつて詰襟の中学生が場末の成人映画館で、ホームレスたちやスケベ親父たちに混ざって、淫靡な雰囲気の中で息を詰めながら観た『恐怖奇形人間』(69)が、今日では爆笑に包まれるのを見ると昔日の思いがする。その石井輝男による《異常性愛映画》で唯一上映プリントがなかった『異常性愛記録 ハレンチ』(69)が先ごろ東映チャンネルで放映されたのを受けて、ニュープリントで上映され、再び東映チャンネルでリピートされる。実はこれこそ詰襟の中学生に決定的なトラウマを与えた映画なのである。

当時、11PMという深夜番組があった。藤本義一がホストを務める火曜イレブンでは、いそのえいたろうの性風俗探訪コーナーというのがあって、いそのが関西のSM愛好者の自宅を訪れたことがある。確か1973年頃の放送だったと思う。愛好者の家の一室にVTRが入ると、壁には石井輝男の《異常性愛映画》のポスターがずらり貼られ、その中央に『異常性愛記録 ハレンチ』のポスターがあった。『異常性愛記録 ハレンチ』は関西で実際に起きた三面記事をモデルにしている。変態男が恋人を監禁虐待したという事件である。関西ではかなり話題になったのだろう(火曜イレブンは大阪読売テレビ製作)。レポーターのいそのはその事件の話題を交えつつ、愛好者にインタビューをし、愛好者の性癖を聞き出していく。あるいはその愛好者はモデルになった事件の当事者だったかもしれない(それならなおさら凄いことだが)。

ともあれ、親が寝静まるのを待ってテレビを盗み観ていた中学生は、VTRに映し出されたポスターに強く反応した。「こ、これは・・・『網走番外地』の監督の作品だ。是非観なければ」。そう思い込んだのである。名古屋駅近くの円頓寺劇場という成人映画専門の名画座で《石井輝男4本立て》が上映されたのはそれからしばらく経ってからである。中学生は、『残酷異常虐待物語 元禄女系図』も『恐怖奇形人間』も『やくざ刑罰史 私刑』も強いショックを受けたが、その4本立ての中でトラウマになるほどショックを受けたのは、なによりも『異常性愛記録 ハレンチ』の若杉英二の変態ぶり、とりわけ体をくねらせて「愛してるんだよ~ん」とか「ボク、しあわせ~」と言う口癖であった。しばらくその若杉英二の口癖と形相は、夢にまで出てきて夜な夜なうなされたりした。映画に登場するゲイバーが地元・名古屋に実在する有名なゲイバーであり、そこに登場するゲイボーイも斯界ではかなり有名な人らしいと年長の友人に教えられ、石井輝男に対する畏怖の思いはさらに募った。

やがて詰襟の中学生はおっさんになり、何の因果か石井輝男監督その人と親しく付き合うことになり、『地獄』(99)の現場に関わることになろうとは誰が想像しただろう。そして、その現場で若杉英二に話を伺う機会があり、「石井ちゃんの映画では僕はそんな役ばっかり」と恨めしそうにボヤく若杉さんと話しているうちに、あの口癖は当時絶大な人気のあった赤塚不二夫の「おそ松くん」のキャラクターのパロディだと思い当たる。そう思っておっさんになった現在、『異常性愛記録 ハレンチ』を観直すと爆笑ものである。未見の人は怖がらず是非観てほしい。

東映チャンネルでは、このほかに「仁義なき戦い」シリーズが登場する。『仁義なき戦い』(73)から『仁義なき戦い・完結篇』(74)の全5作、『新仁義なき戦い』(74)から『新仁義なき戦い・組長最後の日』(76、以上すべて深作欣二)の全3作に加え、『その後の仁義なき戦い』(79、工藤栄一)、『新・仁義なき戦い。』(00、阪本順治)、『新・仁義なき戦い/謀殺』(03、橋本一)まで、「仁義なき戦い」の大看板を題した作品をすべて放映する。中でもレアなのは『仁義なき戦い・総集篇』(80、深作欣二)。これは最初の5部作を224分にまとめた総集篇(といっても『広島死闘篇』はほとんどカットし、大部分を第1作と第3作『代理戦争』、第4作『頂上作戦』から構成されている)で、ビデオになっておらず、今では名画座でもめったに上映されない作品。要チェック。

時代劇では『捨てうり勘兵衛』(58、マキノ雅弘)と『血と砂の決斗』(63、松田定次)が放映される。前者は、大友柳太郎主演の明朗浪人時代劇。未見なので楽しみである。後者は、大友柳太郎と近衛十四郎主演の戦国時代を舞台にした西部劇調の時代劇。野武士が武装した農村を襲撃するクライマックスは『七人の侍』のようだ。そのドサクサに藩主の命を受けて大友を斬ろうとする近衛との決闘が入り乱れる。迫力満点。

現代劇では『893愚連隊』(66、中島貞夫)と『懲役十八年』(67、加藤泰)がオススメ。『893愚連隊』は中島貞夫の出世作になった作品。「ねちょねちょ生きるこっちゃ」という名ゼリフ、望遠を多用したオールロケーションの撮影、荒木一郎の軟体的な存在感、広瀬健次郎のコンボ・ジャズなど、観るたびに発見がある。天知茂が言う「天皇たら親分たらきらいなんや」というセリフは、映倫で揉めて「天皇たら」の部分が削除され、上映プリントでは修正版と未修正版が出回っているらしいので、今回の放映ではどうなっているかチェックしたい。『懲役十八年』は加藤泰が安藤昇と組んだ現代劇3部作の第2作にあたる作品。独特のローアングルの長回しで撮らえた闇市や刑務所の場面は秀逸。凡庸な姉妹編『懲役十八年・仮出獄』(67、降旗康男)と比べれば、全編に殺気が漲っていることが如実に分かる。

このほか『任侠花一輪』(74、三堀篤)にもコメントを加えておきたい。この映画の主役は藤竜也。しかし東映は日活ニュー・アクションのスター藤竜也をヤクザ映画に引っ張り出したのではなく、TBS「時間ですよ」で篠ひろ子と心中未遂をした翳のあるヤクザ「風間」を演じた藤竜也を東映初主演に起用したのである。したがって、この映画での藤竜也のイメージは「時間ですよ」の「風間」とそっくり。70年代半ばには、ヤクザのイメージまでテレビがリードする時代になってきたのである。記憶では『ネオン警察・ジャックの刺青』(70、武田一成)の「腹こわすな」「風邪ひくな」というやりとりに似た常套句の使いまわしを、タバコを使ってやっていたような気がするのだが・・・。脚本はまったく別の村尾昭。

さて、チャンネルNECOでは、「日活陽のあたらない名画祭」の野口博志特集が注目。野口博志といえば、小林旭主演の「銀座旋風児」シリーズや赤木圭一郎主演の「抜き打ちの竜」シリーズのように、日活無国籍アクションを支えた、いわゆる添え物専門の監督。今回、放映されるのはいずれも鈴木清太郎(のち清順)が助監督に就いた作品ばかりの6本。その内訳は、『俺の拳銃は素早い』(54)、『地獄の接吻』(55)、『愛慾と銃弾』(55)、『悪の報酬』(56)、『俺は犯人じゃない』(56)、『志津野一平シリーズ・謎の金塊』(56)。監督が注目されるのではなく、助監督が注目されるというのもなんだかなあと思うが、今回は清順が岸東助との共同ペンネーム「水無月結策」の名で脚本に参加した作品も2本(『愛慾と拳銃』『謎の金塊』)含まれているので、現代に生きる者の特権として、今の視点で清順が師匠から何を学んだかを考察してみたい。『俺は犯人じゃない』なんてむしろ同時代の『その壁を砕け』(59)の中平康あたりと比べてみたい気もするのだが。

「ザ・シリーズ」は結成40周年を記念してコント55号が東宝で主演した『コント55号 世紀の大弱点』(68、和田嘉訓)、『コント55号 人類の大弱点』(69、福田純)、『コント55号 俺は忍者の孫の孫』(69、福田純)、『コント55号 宇宙大冒険』(69、福田純)の4本。コント55号はこの時代、人気絶頂期にあり、東宝と松竹は交互に彼らを主演に映画を製作していた。東宝では福田純、松竹では野村芳太郎がもっぱら監督を担当した。しかし、観るべき作品は、今回は放送されない松竹の『初笑いびっくり武士道』(72、野村芳太郎)だけだと思う。映画はコント55号の魅力をうまく捉らきれなかったのだ。

「ようこそ新東宝の世界へ」では、『暁の非常線』(57、小森白)、『姑娘(くーにゃん)と五人の突撃兵』(58、並木鏡太郎)、『大天狗出現』(60、毛利正樹)の3本。すべて未見なのでなんともいえないが、題名を眺めているだけで大蔵新東宝らしい胡散臭さがぷんぷん匂ってきそう。「姑娘」なんて今は自主規制用語でしょうが。

「名画座 the NIPPON」では、『最後の審判』(65、堀川弘通)、『踊子』(57、清水宏)、『破れ傘長庵』(63、森一生)、『水戸黄門漫遊記』(69、千葉泰樹)、『君たちがいて僕がいた』(64、鷹森立一)の5本。『最後の審判』は東宝フィルム・ノワールに繋がる1本で、原作はW・P・マッギバーン。完全犯罪を目論んだ男が自滅するまでの過程をクールに描いた犯罪映画である。作品そのものの完成度より、谷川俊太郎作詞・武満徹作曲のアンニュイな主題歌「三月のうた」が素晴らしい。簡素なタイトルバックにこの主題歌が流れるオープニングのゾクゾクすることったら!『踊子』は清水宏が大映で監督した作品。永井荷風の原作もので、浅草六区を舞台に踊子の対照的な姉妹を描く。当時の批評は芳しくないようだが、長らく上映プリントもテレビ放送もビデオ化もされなかった作品だけに、今月放送される映画の中では最大の玉ともいえる。戦後の作品に関してはかなり波があるとはいえ、失敗作であっても発見のある清水作品に、初共演の淡島千景と京マチ子が出演し、浅草の踊子姉妹を演じているというだけで必見であると断言しよう。『破れ傘長庵』は、大映企画部の辻久一と座頭市の生みの親である犬塚稔の脚本作品。勝新が当り役である座頭市に匹敵する型破りなダーティ・ヒーローぶりを見せる、痛快な作品である。江戸の長屋を舞台に悪行を重ねる町医者という設定は、『不知火検校』(60、森一生)を意識したのだろうか。勝新のふてぶてしいピカレスクぶりに、やはり犬塚こそが勝新の魅力を生かした最高の脚本家だったと痛感させられる。

このほかNECOでは、3度映画化された「風の又三郎」の全作放映という企画がある。最初の映画化『風の又三郎』(40、島耕二)は戦前の日活児童映画を代表する古典的名作。主演の片山明彦は監督の島耕二の息子。メルヘンの世界を抒情たっぷりに描き、鑑賞後、すがすがしい気分にさせてくれる。その島が戦後大映で御用監督として、やる気のない作品ばかりを撮っていたのは何故なのか。2度目の映画化は『風の又三郎』(57、村山新治)。東映教育映画部の製作だから児童映画として製作されたものなのだろう。この時代の村山の作品はめったに観られないので貴重。未見なので楽しみである。3度目の映画化は『風の又三郎 ガラスのマント』(89、伊藤俊也)。最初の映画化であまりにも有名になった主題歌「ドードドの唄」を効果的に使っていることは嬉しい。原作に登場しない女の子の視点から又三郎の不思議を描いた点が新しい。

続いて日本映画専門チャンネルから「市川雷蔵現代劇全仕事」。今回は「若親分」シリーズ全8作である。現代劇といっても仁侠映画隆盛に抗えず、大映が本格的に製作を開始した初の任侠映画のシリーズなのだが、東映と大映がいかに同じジャンルを映画化してもテイストがかなり異なることが分かるだろう。立ち回りの場面が時代劇調であるところにも、まだ大映が任侠映画をよく理解していなかったことが伺い知れる。ただし、シリーズの監督を最も多く担当した池広一夫(このシリーズの企画者でもある)は、大映のシリーズのローテーション監督の中でケレンある演出に巧さを見せる監督なので、雷蔵の端正な着流し姿と一緒に、そのテイストを楽しみたい。

衛星劇場との共同企画「川島雄三」特集は今回で第3弾。日本映画専門チャンネルからは、『娘はかく抗議する』(52)、『しとやかな獣』(62)、『女であること』(58)、『赤坂の姉妹より・夜の肌』(60)、『花影』(61)、『喜劇・とんかつ一代』(63)、それに再放送の『雁の寺』(62)、『接吻泥棒』(60)、『夜の流れ』(60、成瀬巳喜男と共同)の9本。衛星劇場では、『こんな私じゃなかったに』(52)、『明日は月給日』(52)、『花咲く風』(53)、『新東京行進曲』(53)、『純潔革命』(53)、『東京マダムと大阪夫人』(53)、『お嬢さん社長』(53)、『真実一路』(53)、『昨日と明日の間』(53)、『イチかバチか』(63)の10本。

この中で1953年の『昨日と明日の間』までが松竹時代。今回は日活時代を飛ばして1958年の『女であること』以降が東宝系列時代となる。松竹時代では性典モノ『娘はかく抗議する』と『純潔革命』、美空ひばり主演『お嬢さん社長』、文芸大作『真実一路』など、乱調気味であった初期より、今回は幾分落ち着いて見られる後期の作品ばかりだが、『東京マダムと大阪夫人』の大船調の伝統を受け継ぐ演出、『昨日と明日の間』に早くも垣間見られる《積極的逃避》の要素などの観点から、この2本を推薦したい。前者は川島のお気に入り女優となる芦川いづみのデビュー作、後者は淡島千景が圧倒的に素晴らしい一本。

東宝時代では、あえて代表作でも傑作でもない『花影』を推薦したい。大岡昇平の原作は、文壇バーで多くの文士たちに愛され、自死を選んだムウちゃんこと坂本睦子をモデルにした小説である。彼女は異性からだけでなく同性からも愛され、彼女と交流のあった白洲正子は、大岡の「花影」を読み、「これではムウちゃんがかわいそう」と言ったという。その不満に応える形で久世光彦は彼女をモデルにして小説「女神」を執筆した。川島の作品は、むろん大岡昇平の小説の映画なのだが、男たちの身勝手な視線よりも、『女が階段を上る時』(60)の成瀬演出にも似た風俗描写の冴えに注目すべきである。成瀬がプロデュースも担当した『夜の流れ』の共同監督に川島を指名したのも、こうした川島の腕を評価したからではないだろうか。一昔前の昼メロのような切り口を意外にも熟練した手つきで演出した川島のうまさが見られる作品だと思う。

カワシマクラブ
監督 川島雄三傳
監督 川島雄三

続いて衛星劇場から没後10年を迎える名優の特集が2つ。「フランキー堺没後10周年特集」では、事故死した実在の報道ニュース映画キャメラマンの生涯を夫婦愛と共に描いた『ぶっつけ本番』(58、佐伯幸三)とフランキーが1人6役を演じる珍品『フランキーの宇宙人』(57、菅井一郎)の2本。両作とも観ておいて損はない。特に前者はもっと語られてもよい佳作。「渥美清没後10周年特集」では、『スクラップ集団』(68、田坂具隆)、『続・拝啓天皇陛下様』(63、野村芳太郎)、『白昼堂々』(68、野村芳太郎)、『風来忍法帖』(65、川崎徹広)、『友情』(75、宮崎晃)の5本。定番の中に『風来忍法帖』があって、これはもうひとつの特集「山田風太郎特集」と繫がるという趣向になっている。

その「山田風太郎特集」では、『SHINOBI』(05、下山天)、『くの一忍法』(64、中島貞夫)、『伊賀忍法帖』(82、斎藤光正)、『悦楽』(65、大島渚)、『高校生と殺人犯』(56、水野洽)、そして『風来忍法帖』の6本が放映される。同じ作家の映画化だというのに、見事なまでにバラバラのラインナップには溜息が出るばかりである。山田風太郎のいわゆる風太郎忍法帖は、Vシネのエロス時代劇の格好の材料となるが、こうして見るとその源泉に位置する作品は、『くの一忍法』ただ一本ということになる。中島貞夫は学生時代、ギリシャ悲劇研究会に属していただけあって、摩訶不思議なエロス忍法を様式化されたセットで展開。2作目の『くの一化粧』(64)ともどもOSミュージックのダンサーたちが半裸で踊って、世のスケベ親父たちの目を楽しませた。当然、『悦楽』と並んで、当時は《成人指定》。今ではそんなの関係なしで観放題である。ああ。石井輝男の作品もそうだが、映画から淫靡さが失われて久しい。

「ニッポン無声映画探検隊 第6回」は、『東京の英雄』(35、清水宏)と『与太者と花嫁』(34、野村浩将)の2本。『東京の英雄』はビデオもリリースされているが、冒頭の数分を観ただけで清水宏が時間を省略する天才であることがたちまち了解できる。おそらく清水が時間の省略技法を学んだのはチャップリンの『巴里の女性』(23)であろうが、それを実に巧みに自分のものにしていることがこの1作からも分かる。清水お気に入りの桑野通子のモダンぶりも素晴らしい。『与太者と花嫁』は定番になった、三井弘次、磯野秋雄、阿部正三郎トリオの喜劇。「ヒットした映画ほど残っておらず、小津の映画はヒットしなかったから残っている」という俗説に反して、この与太者シリーズはヒットしたはずだが、一体何本残っているのだろうか。機会があるごとに与太者シリーズを観てきて思うのは、役者のアンサンブルなど悪くはないのだが、サイレント映画に特徴的なスラップステック的要素の不徹底とナンセンスの欠如である。つくづく斎藤寅次郎のサイレント映画の大半が失われたことを残念に思うばかりである(今回は若水絹子が出演していないのでやや辛口です!)。

「メモリー・オブ・若尾文子」は「part15」を数える。もう名作・佳作は出尽くしたところだと思うが、文子タンの出演作はすべて放送するというその姿勢には感動を覚える。こっちも付き合わなければ。今月は『八月生れの女』(63、田中重雄)、『彼女の特ダネ』(52、仲木繁夫)、『誘惑からの脱出』(57、島耕二)の3本。く~、やっぱり田中重雄や島耕二のしまりのない映画を観続けなくちゃいけないのですか? それでなくとも時間の遣り繰りが大変なんで。でも、京マチ子主演の『彼女の特ダネ』は観たいし、『誘惑からの脱出』は大映現代劇のヴィスタヴィジョン第1作だし・・・・。なんてことを言って、やっぱ付き合います! 最後まで!

「銀幕の美女シリーズ」は「高千穂ひづる特集」。作家主義的には『明日への盛装』(59、中村登)だけ要チェックと言いたいところだが、そうは問屋が卸さないから産地直入。『ろまん化粧』(58、穂積利昌)は確かに観た覚えがあるが、まるで記憶がないから要チェック。『禁猟区』(61、内川清一郎)は、高千穂ひづるが田村高廣を誘惑すべく庭に出て、竹林をポールに見立ててストリップを始める場面があったような・・・、あれは確か黒のガーターだったような・・・、そんなところしか覚えていないから再度要チェック。それに高千穂ひづるといえば、松竹時代は内川清一郎と名コンビなんだから。『白い炎』(58、番匠義彰)は井上靖原作の文芸作品。これは未見なので是非。

「リクエスト・アワー」にも内川清一郎作品が2本。『口から出まかせ』(58)と『大穴』(60)である。前者の撮影を担当した岡崎宏三は気に入っていたようだが、う~ん、プロットはロードムーヴィにスクリューボール・コメディを掛け合わせたような映画なんだが、如何せんテンポがなあ。さすがの森繁もあまりいいところがない。後者は未見なので調べてみると、「ギャンブルに賭ける若者を描いた青春映画」だということ。というよりあらすじを読むと、これは「株に賭ける若者を描いた映画」といった方が正しいようだ。ならば空前の株ブームに沸く今なら是非観ておかなければならない。ほかにも「リクエスト・アワー」には、エノケンの1人2役『エノケンのどんぐり頓兵衛』(36、山本嘉次郎)、デコちゃんが不良少女を演じる『愛の世界 山猫とみの話』(43、青柳信雄)、水島道太郎が学生ボクサーを殴り殺して苦悩する『殺人者の顔』(50、衣笠貞之助)、火野葦平原作の侠客もの『新遊侠伝』(51、佐伯清)、『ロッパの大久保彦左衛門』(39、斎藤寅次郎)、『原野の子ら』(97、中山節夫)などが登場する。この中で期待したいのは『新遊侠伝』。のちに斎藤武市監督・小林旭主演でリメイクされた最初の映画化版。観る機会が少ないのでこれは是非ともチェックしたい。