映画の中のジャズ、ジャズの中の映画 Text by 上島春彦
第46回 60年代日本映画からジャズを聴く その7
アレンジャー八木正生の映画音楽集とスタンダード集をちらっとだけ
「時代」のドキュメンタリーとしての『白い朝』の具体音楽
ミュージック・コンクレート(を含むテープ音楽)の方法論と八木の関わりについては、まず映画『白い朝』(勅使河原宏監督、64)を見て聴いていただくのが一番なのだが、これはDVD化もされておらず、音源も「武満徹・映画音楽④勅使河原宏監督作品篇」と「武満徹全集<第3巻>」にしか収録されていない(また前者の特典盤CDに入っていた長いバージョンが現在後者にそのまま収録されている)。ミュージック・コンクレートとは翻訳すると「具体音楽」。楽器で楽譜に記載されている楽音を演奏するのではなく、音自体、物と物がぶつかってたてる音とか或いは雷とかの自然音、要するに音楽だと思われていない物音を使って作る音楽である。「武満を語る15の証言」の注釈によると「1948年、フランスの作曲家ピエール・シェフェールが作った『騒音の音楽』が最初の試み」とある。「武満も同時期に同じような発想を得ていた」とも。「人の声を用いた『ヴォーカリズムA.I.』(1956)、水の音を用いた『水の曲』(1960)などがある。」
当然、コンサートやラジオでそれが奏されるには録音作品となるのがほとんどだし、また録音された音素材を様々な方法で加工、変形させてテープ録音作品とすることも多かった。上記のような作品は実際のところ全集でしか聴きようがないが、武満はそうした方法を時折映画音楽の場でも行使した。『白い朝』が典型的な一本で、ここにジャズ・ピアニストとして参加したのが八木だった。
秋山邦晴「武満徹・映画音楽④」作品解説から引用する。

ジャン・ルーシュ、ミシェル・ブロウらのフランス、カナダ、イタリア、それに日本、四人の若手監督が性にめざめる少女をテーマに競作した異色のオムニバス映画『思春期』。その日本篇がこの勅使河原宏監督の『白い朝』である。『おとし穴』『砂の女』と同じ脚本・安部公房、音楽・武満徹とのトリオで取り組んだ意欲作。(略)この映画では、脚本を書くまえに、まず、ひたすら十代の若者たちの声を録音することからスタートした。ボーリング場、スケート場、喫茶店など、思春期の世代の若い人たちの集まる場所には、どこへでも録音機をかついで出掛け、徹底的にテープ録音をすることから始めた。収録したテープは150本以上(総計75時間以上)で、これを武満徹が25分に編集。これをもとにテーマと自由な脚本がつくられた。(略)武満徹は感性のゆたかなすばらしいメロディをうみだす作曲家である。ここでのこんなにもリリカルで、詩的で、音楽性ゆたかなメロディ。それは誰の心にも刻みこまれてしまうに違いない。ピアノ・ソロのジャズ・ピアニスト八木正生の演奏がまたすばらしい。(続く)