第16回 オタール・イオセリアーニ、リュック・ムレ、ピーター・ワトキンスらの反体制的映画












オタール・イオセリアーニの新作『秋の庭』(仮題。107分)が7月7日に、フランスのラ・ロシェル映画祭で上映された。イオセリアーニと出演者の一人ミシェル・ピコリが出席。またパリ市内の映画館アルルカンで、「パリ・シネマ」という企画枠でも7月9日に先行上映された。こちらはイオセリアーニと出演の一人ピエール・エテックスが出席。フランス=イタリア=ロシア合作映画で、パリでの正式公開は9月6日。

製作マルティーヌ・マリニャック、撮影ウィリアム・ルプシャンスキ、美術マニュ・ド・ショヴィニ、音楽ニコラ・ズラビシヴィリというチームはいつも通りだが、今回、チーフ撮影助手にルプシャンスキの娘イリナ・ルプシャンスキがつき、さらにセカンド撮影助手にイオセリアーニの孫にあたるニコ・タリエラシヴィリがついている。ルプシャンスキーはマリニャック製作、バルザックの『ランジェ侯爵夫人』(1834)に基づく、ジャック・リヴェットの新作『斧に触れないで Ne touchez pas la hache』(2007)の撮影も手がけている。同作には、ジャンヌ・バリバール、ギヨーム・ドパルデュー、オリヴェイラの『ベル・トゥジュール』(仮題。2006)のビュル・オジエとミシェル・ピコリも出演。美術のマニュ・ド・ショヴィニ、製作管理のクリスチャン・ランベール、衣装のマイラ・ラメダン・レヴィも『秋の庭』と同じ。

『秋の庭』の出演者には、『素敵な歌と舟はゆく』(1999)と『月曜日に乾杯!』(2002)に続く出演となるリリ・ラヴィナのほか、マニュ・ド・ショヴィニや、8月24日の「没後50年 溝口健二 国際シンポジウム」にも参加の映画批評家ジャン・ドゥーシェもいる。端役には、イオセリアーニ作品常連のパスカル・オビエ、のっぽのヤニック・カルパンティエもいる。さらにイオセリアーニ自身、製作者のマルティーヌ・マリニャックらに加え、ジュンイチ・ニシマタという日本人の名も見える。ピコリはセヴラン・ブランシェ扮する主人公の大臣ヴァンサンの母親(!)マリー役。セヴラン・ブランシェは、ダイレクト・シネマの流れを受け継ぐ記録映画作家ワークショップ集団「アトリエ・ヴァラン」のメンバー。

「アトリエ・ヴィラン」はジャン・ルーシュのモザンビーク人自身によりモザンビーク人の現実を映画で記録するという理念に基づき、1981年に結成された。パリに本拠を置き、カンボジア、ノルウェー、ルーマニア、コロンビア、ポルトガル、セルビアほかでワ−クショップを催し、国際的な記録映画研修の拠点として高く評価されている。『月曜日に乾杯!』に主演したジャック・ビドゥーや、『カイエ・デュ・シネマ』の元編集長でジャズ批評家でもあるジャン=ルイ・コモリ、やはり映画批評家でもあるマリ=クロード・トレユーもメンバー。『やさしい嘘』(2003)の監督ジュリー・ベルチュセッリも、劇映画の助監督を経て、ここで短編記録映画を撮った後、イオセリアーニ監督の『群盗、第七章』(1996)の助監督に就いた。

さらに『秋の庭』には、日本ではジャック・タチのポスター・デザインで知られ、『ぼくの伯父さん』(1958)では助監督を務めた上、郵便配達夫役で出演、ブレッソンの『スリ』(1960)ではスリを演じたピエール・エテックスも出演している。

『ぼくの伯父さん』の仏語版修復版と英語版を共に収録した特別版DVDはフランスのナイーヴから出ている。

2005年の『ぼくの伯父さん』北米プレミア

ジャック・タチ公式サイト

さらに『秋の庭』には、『月の寵児たち』(特殊上映題。1984)、『素敵な歌と舟はゆく』にも登場した第一次大戦の兵士の像もまたもや登場。豹も出てくるし、『月曜日に乾杯!』同様、聖ゲオルギウスとドラゴンの絵も出てくる。これだけで、イオセリアーニの刻印は充分すぎるほど伝わってくるのだが、それが退屈な自己模倣を意味するわけではないのは言うまでもない。

ここで2002年2月にパリのシネマテーク・フランセーズで催されたイオセリアーニ特集上映に際し、イオセリアーニが選んだ「白紙委任状(カルト・ブランシュ)」の作品を挙げておく。

『自由を我等に』(1931。監督ルネ・クレール)
『アタラント号』(1933−34。監督ジャン・ヴィゴ)
『ヤナの友情』(映画祭題。1999。監督アリク・カプルン)
『ミラノの奇蹟』(1950。監督ヴィットリオ・デ・シーカ)
『ぼくの伯父さん』(1956−58。監督ジャック・タチ)
『国境の町』(1933。監督ボリス・バルネット)
『ピロスマニ』(1971。監督ゲオルギ・シェンゲラヤ)
『タバコロード』(1941。監督ジョン・フォード)

アリク・カプルンは1958年、モスクワ生まれ。モスクワで医学を学んだ後、イスラエルに移住し、映画製作を学んだ。人情喜劇『ヤナの友達』は湾岸戦争中のテルアヴィヴを舞台にしたイスラエル映画。主人公のヤナ(エヴリン・カプルン)は、ロシア移民で、妊娠中なのに夫に逃げられ、故郷にも帰れず困惑する若い女性。ヤナに扮するエヴリン・カプルンはアリクの妻。『カップ・ファイナル』(特殊上映題。1991)のエラン・リクリス(1954年生まれ)監督の仏=独=イスラエル合作映画でイスラエル占領下のゴラン高原を舞台にした喜劇『シリアの花嫁』(未。2004)などに出演。『ヤナの友達』のDVDは米国のファースト・ラン・フィーチャーズから発売されている。『シリアの花嫁』のDVDは米国のコーク・ローバーから6月6日に発売された。

『カップ・ファイナル』には、北部パレスチナ自治領ジェニン難民キャンプの攻撃を隠し撮りし、製作者が自宅で銃殺された問題作『ジェニン ジェニン』(特殊上映題。2002。日本語記事)の監督でイスラエル国籍パレスチナ人のモハマッド・バクリも出演。

バクリの主演作のDVDとしては、サヴェーリオ・コスタンツォ(1975年、ローマ生まれ)監督のロカルノ映画祭・金豹賞受賞作『プライヴェート Private』(未。2004。公式サイト)が6月6日に、米国のタイプキャスト/アラブ・フィルム・ディストリビューションから発売された。イスラエル占領下でイスラエル軍に家を不法占拠されたパレスチナ家族を描く。

またアモス・ギタイ監督のイスラエル=英=墺=蘭合作映画『エステル』(特殊上映題。1986。日本語解説)も米国のファセッツからDVDが出ている。撮影は『美女と野獣』(1946)、『ローマの休日』(1953)、『ベルリン・天使の詩(うた)』(1987)の名匠アンリ・アルカン。

バクリについては「新潮」2004年8月号掲載の四方田犬彦「緊急ルポルタージュ ムハメッド・バクリの孤立」を参照。バクリは12月に来日し、明治学院大学で、一人芝居『悲観楽観論者』公演とシンポジウムが行なわれる予定。

  イオセリアーニのDVDについては、日本では、『素敵な歌と舟はゆく』、『月曜日に乾杯!』がキングレコードから出ているほか、紀伊國屋書店からDVD−BOX『オタール・イオセリアーニ・コレクション』が2005年4月23日に発売された。収録作は『四月』、『歌うつぐみがおりました』、『蝶採り』(1991)、『群盗、第七章』。その後、今年になってからバラ売りもされている。またイオセリアーニについては、遠山純生編『イオセリアーニに乾杯!』(エスクァイア マガジン ジャパン、2004年)を参照。ただし『歌うつぐみがおりました』と『群盗、第七章』の非常に入り組んだ「あらすじ」はDVD封入解説リーフレットで改定してあるので、できればそちらを参照されたい。このDVDの『歌うつぐみがおりました』、『群盗、第七章』のクレジット・データも、おそらく世界で最も詳しいもの。

仏ゴーモン盤『ジャン・ヴィゴ全集』DVD(2枚組。日本語によるレヴュー)とそれに準じた英アーティフィシャル・アイ盤(2枚組)、また同じゴーモン原版を使用したIVC盤ジャン・ヴィゴDVD−BOX[完全版]』(3枚組。初回生産限定)には特典としてイオセリアーニ・インタヴューが収録されている。ところで、仏盤、英盤ともに、ジャック・ロジエ演出の「我らの時代の映画作家」ジャン・ヴィゴ編(1964)を収録しているが、なぜかIVC盤には未収録。一体何が「完全版」なのだろう。もっともスペインのシャーロック・フィルムズから2005年に出たDVD『ジャン・ヴィゴ全集』(2枚組)の特典映像も仏盤や英盤より少ない。なおゴーモン盤にはエリック・ロメールが演出した教育TV番組で『アタラント号』を放映した際のトリュフォーによる解説(1968)も収録。日本語で読めるヴィゴに関する評伝なり専門研究書はないが、ジュリアン・テンプル監督の英=仏合作のヴィゴ伝記映画『ヴィゴ〜カメラの前の情事』(1998)は、アミューズ・ビデオからDVDが出ている。

イオセリアーニの主要作を網羅した画期的なDVD−BOX『オタール・イオセリアーニ』(7枚組)は、2004年2月24日、フランスのブラックアウトから限定発売されたが廃盤。その後、2005年5月12日、ブラックアウトからグルジア(「グルジア」はロシア語なのでイオセリアーニは、この表記を嫌っている。現地語で「グルジア」は「サカルトヴェロ」と呼ばれるが、西欧語圏では古くから「Georgia」として知られる)時代の4作、『四月』、『落葉』、『歌うつぐみがおりました』、『田園詩』のセット『オタール・イオセリアーニ4作品』がDVD発売された。英語、仏語字幕付き。同じ4作は米国ファセッツからも2005年12月13日発売。

『オタール・イオセリアーニ4作品』仏ブラックアウト盤DVDレヴュー 英語 / 仏語

グルジア時代のイオセリアーニ監督作のうち、最も早く日本公開された『落葉』は、日本では、イオセリアーニの認めていないロシア語吹替え版で公開された。2000年5月にアテネ・フランセ文化センターで開催された「オタール・イオセリアーニ監督特集」では、監督の希望により本人所蔵のグルジア語音声、仏語字幕プリントが初めて日本で上映された。もちろん、DVDでは本来のグルジア語およびロシア語音声版で観ることができる。

「第4回」で紹介したパスカル・オビエ全集DVD−BOXに収録の『ガスコーニュの息子』(未。1994)の特典ディスクには「オタール・イオセリアーニ、パスカル・オビエを語る」が収録されている。パスカル・オビエについてはパスカル・オビエ著『ガスコーニュの回想録』(Yellow Now,1996)をも参照。パスカル・オビエは1943年、パリ生まれ。父はミシェル・レリスらの本を作った高名な編集者ジャン・オビエ(1913−56)。

ピカソの劇『しっぽをつかまれた欲望』(1941。制作・演出アルベール・カミュ)の上演(1944年6月16日)後にピカソの工房で撮ったブラッサイの写真

ジャック・ラカン、セシル・エリュアール(詩人ポール・エリュアールの娘)、ピエール・ルヴェルディ、ルイーズ・レリス(ミシェルの妻)、パブロ・ピカソ、ザニ・キャンパン(ジャン・オビエの妻、パスカルの母にあたる女優)、ヴァランティーヌ・ユゴー(ヴィクトル・ユゴーの曾孫ジャンと結婚した画家・舞台装置家のヴァランティーヌ・グロス)、シモーヌ・ド・ボーヴォワール、ブラッサイ、ジャン=ポール・サルトル、アルベール・カミュ、ミシェル・レリス、ジャン・オビエが一堂に会した貴重な写真。

パスカルはソルボンヌ大学で哲学、人類学、東洋言語を学び、19歳で非合法映画の仕事を始めた。リセでの友人バーベット・シュローダー(バルベ・シュレデール)が製作したオムニバス『パリところどころ』(1965)の助監督に就き、ゴダールの『気狂いピエロ』(1965)に端役で出演、『男性・女性』(1965)でも助監督を務めた。クラブ「ビュス・パラディウム」の記録映画『暗闇となりぬ Tenebrae factae sunt』(未。15分。1965。『男性・女性』と併映)以後、短編映画を監督し、1973年には自ら主演した『兵士と三人の姉妹』(未。1972。28分)でジャン・ヴィゴ賞を受賞した。長編監督作にアラン・キュニー、ベルナデット・ラフォン主演、音楽イヴリー・ギトリスの左翼風刺喜劇『バルパライソ…、バルパライソ』(未。1971)、『出発の歌』(未。1975)、『ガスコーニュの息子』、『カモン』(未。2000。7短編からなる)がある。  1996年から2000年までニューヨーク大学ティッシュ芸術大学院で演出を教え、2000年から2003年までキューバのサン・アントニオ・デ・ロス・バニョスの国際映画テレビ学校で演出を教えた。1967年にアレクサンドラ・スチュワルト、アンナ・カリーナらと共に『カイエ・デュ・シネマ』特派員としてモスクワ映画祭を訪ねた際、グルジアの映画監督オタール・イオセリアーニと知り合い、以後親友となった。俳優としては、クロード・ルルーシュ製作、ジョゼ・ヴァレラ監督の『風もひとりぼっち』(1967)、ジェラール・ブラッシュ、ロマン・ポランスキ脚本、ジャン=ダニエル・シモン監督の『向かいの娘』(未。1968)、1969年にはハンガリーでミクローシュ・ヤンチョー監督の『冬のシロッコ』(未)に出演した。『万事快調』(1971)と『バルパライソ…、バルパライソ』の助監督イザベル・ポンスは当時、ゴダールの協力者ジャン=ピエール・ゴランの恋人だった。『バルパライソ…、バルパライソ』の製作には『ママと娼婦』(1973)の製作者ピエール・コトレル(『ガスコーニュの息子』に本人役で出演)も参加している。彼らはリセ・ルイ=ル・グラン校以来の知己らしい。タルコフスキーはオビエのことを「フランス映画の大きな希望」と評した。

ベルナデット・ラフォンが『リュマニテ』1991年6月26日号に寄稿した「超現実主義者オビエ」

なお、ブラックアウトは9月7日にDVD−BOX『リュック・ムレ6作品』を発売。収録作は『ブリジットとブリジット』(未。1966)、『密輸業者たち』(未。1967)、『ビリー・ザ・キッドの冒険』(未。1971)、『カップルの解剖学』(特殊上映題。1975)、『食事の起源』(未。1978)、『パルパイヨン』(未。1992)。特典にムレの『アルカザール座の座席』(未。1989)とジェラール・クラン監督のムレに関する記録映画『運河地帯の男 L'homme des Roubines』(未。2001)。英語字幕付き。

ゴダールに「革命的」と絶賛され、ジャン=マリー・ストローブが「間違いなくブニュエルとタチの唯一の後継者」と断じたというムレの長編第一作『ブリジットとブリジット』でそれぞれ田舎の村からパリに上京してきた二人のブリジットを演じるのはフランソワーズ・ヴァテルとコレット・デコンブ。『パリところどころ』の1編『サンドニ街』を含むジャン=ピエール・ポレ(2004年9月9日没)監督作でレオンという名の内気な主人公を何度か演じているクロード・メルキがここでもメルキという青年を演じる。その他、クロード・シャブロル、ミシェル・ドライエ、サミュエル・フラー、エリック・ロメール、アンドレ・テシネらが出演。

ジョナサン・ローゼンバウムによるリュック・ムレ評

クリス・フジワラによるリュック・ムレ評

ストローブが「ゴダールの監督していない最高の映画」と評し、ムレ自身が「ロブ=グリエの最高傑作」と評した『密輸業者たち』では、フランソワーズ・ヴァテルが再びブリジットという娘を演じる。ゴダール監督の『カラビニエ』(1963)でミケランジェロ役を演じたアルベール・ジュロスも出演。アルベール・ジュロスは本名パトリス・ムレ。リュック・ムレの弟で、本業は作曲家。1968年、「アルプス」というジャズ・ロック・グループを結成し、『カラビニエ』でクレオパトラ役を演じたカトリーヌ・リベイロと出会い、1967年以後、共に音楽活動を始め、1969年以後、「カトリーヌ・リベイロ+アルプス」名義で10枚のアルバムを発表している。1985年以後、マルセル・レルビエ監督の『人でなしの女・イニューメン』(1923)上映に伴い創作楽器の演奏を行う。1990年には、演出・石岡瑛子、装置・倉俣史郎、衣裳・三宅一生の日本公演も行った。

『ビリー・ザ・キッドの冒険』はジャン=ピエール・レオーがビリー・ザ・キッドに扮する西部劇。音楽はパトリス・ムレ。編集はジャン・ウスターシュ。『アルカザール座の座席』は、1955年の「カイエ・デュ・シネマ」の、スペクタクル史劇の巨匠ヴィットリオ・コッタファーヴィ監督を崇拝する映画批評家ギ・モスカルド(オリヴィエ・マルティーニ)とそのライヴァル誌「ポジティフ」のミケランジェロ・アントニオーニ監督を崇拝する批評家ジャンヌ・カヴァレロ(エリザベット・モロー)を主人公とする中編喜劇。題名は1936年のスペインを舞台にした、アウグスト・ジェニーナ監督の、スペイン内戦におけるフランコの勝利を讃えるファシスト映画『アルカザル要塞攻囲 L'Assedio dell'Alcazar』(1940)のもじり。『突然炎のごとく』(1962)、『柔らかい肌』(1964)に子役として出ていたサビーヌ・オードパンも共演。  『ルビンヌの男』の監督ジェラール・クランは、『レネットとミラベルの四つの冒険』(1987)や『パルパイヨン』に出演している。

このほか、ムレ監督作のDVDには、ブラックアウトから出ている、ジャン・ヴィゴ賞受賞作『仕事の喜劇』(未。1988)がある。主演はロラン・ブランシュ、サビーヌ・オードパン。特典はムレ・インタヴュー。短編『Barres』(未。1984。14分)も収録。またアール・マルタから出ている『クレルモン=フェラン:短編映画の25年』というDVDにはムレ監督の『Essai d'ouverture』(未。1988。15分)も収録。他の主な収録作に、ジャコ・ヴァン・ドルマル監督の『E pericoloso sporgersi』(未。1984。14分)、ジャン=ピエール・ジュネ監督の『Foutaises』(国内DVD発売。1989。7分)、ヤン・クーネン監督の『Gisele Kerozene』(未。1989。5分)など。ジュネの『Foutaises』はコロムビアミュージックエンターテイメントから発売の国内盤DVD『ジャン=ピエール・ジュネ傑作短編集』に収録。

またイオセリアーニの友人で、『月の寵児たち』に出演しているベルナール・エイゼンシッツ編集の季刊誌「シネマ」の5月に発売された「011」号の付録DVDには、リュック・ムレの『カバル・デ・ズルサン La cabale des oursins』(未。1991)、『ロングスタッフの亡霊』(未。1996)の2短編を収録。前者は、ムレ自身と、昨年12月に著書『フィルム・ノワール』(Cahiers du cinema)を上梓したノエル・シムソロ、この5月に『成瀬巳喜男』(Cahiers du cinema)を上梓したばかりのジャン・ナルボーニが出演。後者はヘンリー・ジェイムズの短編小説『ロングスタッフの結婚』(1878)に基づく。

18歳で「カイエ」誌に寄稿を始めた批評家出身のリュック・ムレ監督作はすべて日本未公開だが、『カップルの解剖学』の日本語レヴューが読める。

サム・ディロリオ「木こりのまなざし:リュック・ムレとカイエ・デュ・シネマ」、「SubStance」108号(2005年)

リュック・ムレのお気に入りの10本

『盲目のフクロウ』(未。1987。監督ラウル・ルイス)
『夜の喧騒』(未。1979。監督カトリーヌ・ブレイヤ)
『言葉の力』(特殊上映題。1988。監督ジャン=リュック・ゴダール)
『山猫リシュカ』(1921。監督エルンスト・ルービッチュ)
『昨日への道』(1925。監督セシル・B・デミル)
『ルビイ』(1952。監督キング・ヴィドア)
『ショック集団』(1963。監督サミュエル・フラー)
『GO FISH』(1994。監督ローズ・トローシ)
『ブレックファースト・オブ・チャンピオンズ』(1998。監督アラン・ルドルフ)
『金色の寝床』(1925。監督セシル・B・デミル)

なおフランスのPOMフィルムから『ジャン=ダニエル・ポレ:概観』と題したDVD−BOX(3枚組)が1月に発売された。収録作は『地中海』(特殊上映題。1963。44分)+『バッサエ』(未。1964。9分)+『秩序』(未。1974。42分)、『何であろうと』(未。1994。90分)、『向かいの人々』(未。2001。91分)。それぞれのDVDは単体でも出ている。ジャン=ルイ・ルートラ、シュザンヌ・リアンドラ・ギゲス著『概観:ジャン=ダニエル・ポレ』(editions de l'oeil,2004)も参照

ポレ監督作のDVDにはこのほか、フランスのオープニング発売、クロード・メルキ主演の『アクロバット』(特殊上映題。1976。)がある。特典に2短編『陶酔さえすりゃ』(特殊上映題。1958。21分)と『ガラ』(未。1961。19分)収録。また『ジャン=ダニエル・ポレの思い出』(50分)では、ジャン・ドゥーシェ、ノエル・シムソロ、ジャン・ナルボーニらが思い出を語る。

またクロード・メルキ、シャンタル・ゴヤ、ベルナデット・ラフォン、ジャン=ピエール・マリエル主演の『恋は楽し、恋は悲し』(未。1968)のDVDはアルテから9月19日発売。リュック・ムレも小さな役で出演。

リュック・ムレが端役出演した異色映画に、ミシェール・ロジエ脚本・監督の『ジョルジュ誰?』(未。1973)があるがこれもレ・フィルム・デュ・パラドクスからDVDが出ている。ジョルジュ・サンドの伝記映画で、サンドに扮すのはアンヌ・ヴィアゼムスキー。共演はアラン・リボーらだが、ビュル・オジエ、ジル・ドゥルーズ、ロジェ・プランション、ジャン=ピエール・カルフォンといった人々も出演。撮影は『万事快調』のアルマン・マルコ。音楽はショパン、リストの曲のほか、ジャン=ジャック・ドゥブーとマル・ウォルドロンのオリジナル。16頁のリーフレット付き。

ミシェール・ロジエ脚本・監督の12歳の少女ルイーズのドラマ『キスして』(未。1989)、パリからモン=サン=ミシェルに行く観光バスを舞台にした群像劇『観光バス極楽』(未。1995)およびアンドレ・マルローの伝記映画『マルロー、あなたには驚かされる!』(未。2001)のDVDもレ・フィルム・デュ・パラドクスから出ている。『キスして』の撮影は『パニック・ルーム』(2002)、『僕のニューヨークライフ』(2004)、『ザ・インタープリター』(2005)、『ジダン 神が愛した男』(2006)のダリウス・コンジ。

『ジョルジュ誰?』は『シネマ』2部作(1983、1985)の著者でもある哲学者ジル・ドゥルーズ(1925−95)のおそらく唯一の映画出演作だが、哲学者ジャック・デリダ(1930−2004)の出演したケン・マクマレン(1948年、マンチェスター生まれ)監督の『ゴースト・ダンス』(未。1983。サントラ盤情報)も英国のMBOXから4月24日にDVD化された。『満月の夜』(1984)のパスカル・オジエ主演。音楽はデイヴィッド・カニンガム(1954年、北アイルランド生まれ)、マイケル・ジャイルズ(1942年、ウィントン生まれ)、ジェイミー・ミューア

6月5日にはマクマレン監督のレオン・トロツキーの娘ジナイーダ・ブロンステイン(1901−33)を扱った『ジーナ』(未。1985)もDVD化された。ジーナに扮すのは『ノスタルジア』(1983)のドミツィアーナ・ジョルダーノ。ジーナの精神科医クロンフェルト博士(1886−1941)に扮すのは『ロード・オブ・ザ・リング』3部作(2001−03)や『ダ・ヴィンチ・コード』(2006)のイアン・マッケラン。ジーナもクロインフェルト博士も自殺に追いやられた。撮影は『狼の血族』(1984)のブライアン・ロフタス。音楽はデイヴィッド・カニンガム、バリー・ガード、サイモン・ヘイワース。マクマレン監督のパリ・コミューンを扱った『1871』(未。1990)、1947年のインドの英国からの分離独立を扱った『分離』(未。1987)のDVD化も予告されているが未発売の模様。マクマレン監督の『芸術科学の先駆者たち:メツガー』(未。2004)と『芸術科学の先駆者たち:芸術、詩、素粒子物理学』(未。2004)はアーツ・カウンシル・イングランドからDVDが出ている。前者は破壊芸術の提唱者グスタフ・メツガー(1926年、ドイツ、ニュルンブルク生まれ)を扱う。後者では作家、美術評論家のジョン・バージャー(1926年、ロンドン生まれ)がジュネーヴの世界最大の素粒子物理学研究所、欧州合同素粒子原子核研究機構(CERN)やボルヘスの墓を訪ねる。

カービー・ディック、エイミー・ジーリング・コフマン監督の記録映画『デリダ』(未。2002)のDVDもツァイトガイスト・フィルムスから出ている。音楽は坂本龍一。

ジェラール・ポワトゥ=ヴェベール製作・監督のTV映画『ジョルジュ・サンド』(未。1994)のDVDは、フランスのドリアヌ・フィルムから出ている。サンド役はエマニュエル・ベアール、ミシェル・ピコリ、アヌーク・エメ出演の『小悪魔とキッス』(ビデオ題。1993)の脚本・監督クリスティーヌ・チッティ(1962年生まれ)。ジョルジュ・サンドについては、秋元千穂、石橋美恵子、坂本千代、高岡尚子、西尾治子、 平井知香子、吉田綾、渡辺響子『ジョルジュ・サンドの世界』(第三書房。2003)を参照。

マクマレンも活動家の女優の目から見たパリ・コミューンの映画『1871』を撮っているが、ピーター・ワトキンス(1935年、英国、サレイ生まれ)監督の擬似記録映画『コミューン(パリ、1871)』(未。2001)のDVD(2枚組)はフランスのドリアヌ・フィルムから出ている。375分の長編。英語字幕付き。特典にワトキンスのインタヴュー。『コミューン(パリ、1871)』の特別版DVD(3枚組)は米国のファースト・ラン・フィーチャーズから10月24日発売。特典にジェフ・ボウイ監督の『The Universal Clock : The Resistance of Peter Watkins』(未。2001。76分)を収録。ジェフ・ボウイはカナダの映画作家で、「第15回」で紹介した『ストランド:暗幕の下で』(未。1989)では編集に参加している。

『コミューン(パリ、1971)』に関するル・モンド・ディプロマティークの2000年3月の記事(仏語)

『コミューン(パリ、1971)』に関する英語記事 mnsi.net

ピーター・ワトキンスのメディア批判(英語)

ワトキンス監督のノルウェー=スウェーデン合作映画『ムンク 愛のレクイエム』(1976)は、オリジナル全長版(3時間32分)と短縮版(2時間50分)がある。1991年の日本公開版は短縮版。小松弘監修、渡辺芳子責任編集『北欧映画完全ガイド』(新宿書房、2005)を参照。DVDはフランスのドリアヌ(レヴュー)、米国のニューヨーカー(レヴュー slantmagazine.com / dvdtown.com)から出ている。

ワトキンス監督の『傷だらけのアイドル』(1967)は、日本ではブリティッシュ・ロック・ファンのあいだでのみ知られているように思われる。元マンフレッド・マンのポール・ジョーンズが主演。また共演者の当時のスーパーモデル、ジーン・シュリンプトンはこれが唯一の映画出演作。ポール・ジョーンズ扮するロック・スター、スティーヴン・ショーターが冒頭のステージ場面で手錠をかけられたまま熱唱する「Free me」はパティ・スミスも「Privilege (Set Me Free)」という題名でカヴァー(1978年のアルバム『イースター』収録)。

2001年1〜2月のハーヴァード・フィルム・アーカイヴでのピーター・ワトキンス監督特集上映(英語)

リオ・ゴールドスミス「The Radical Histories of Peter Watkins」

ワトキンス監督のTVドラマ『カロデン』(未。1964)のDVDはBFIから出ているが現在廃盤。スコットランドのカロデンの戦い(1746年4月16日)を現代の記録映画のスタイルで再現。特典にワトキンス監督のアマチュア映画『忘れられた顔』(未。1961。18分)と撮影風景。BFIからはワトキンス監督の『戦争ゲーム』(特殊上映のみ。1965)のDVDも出ているがこれも廃盤。特典はワトキンス監督のアマチュア映画『無名兵士の日記』(未。1959。17分)。米ニューヨーカー・ヴィデオから『戦争ゲーム』と『カロデン』を収めたDVDが7月25日に発売された。

『戦争ゲーム』DVD、BFI盤とニューヨーカー盤の比較

ニューヨーカーからはワトキンス監督のスウェーデン映画『剣闘士たち』(未。1969。レヴュー)のDVDも出ている。特典は『無名兵士の日記』。近未来に諸国家がスパゲッティ会社提供の「平和ゲーム」というテレビ放映される剣闘試合に参加するが、第256回の中国対西洋の試合をフランスの過激派学生が妨害し、その結果期せずしてコンピュータが英国兵と彼が愛する中国人捕虜を殺す。ワトキンス監督の『懲罰パーク』(未。1971)のDVDはドリアヌから出ている。特典は『無名兵士の日記』と『忘れられた顔』。『懲罰パーク』のDVDは英国のユリイカと米国のニューヨーカーからも出ている。ニューヨーカー盤には特典に『忘れられた顔』が付く。

『懲罰パーク』DVD、ユリイカ盤とニューヨーカー盤の比較

『懲罰パーク』は、1971年に合衆国大統領が国内治安非常事態を布告、議会の承認なしに秘密の拘留キャンプを設立、大半が大学生からなる拘留者の中で、減刑と引き換えに、砂漠を横断するゲーム「懲罰パーク」を選択したグループは、武装した追跡隊を逃れ、制限時間内に国旗まで辿り着かねばならない。この映画は全編、英国のテレビ局BBSの記録映画製作部が手持ちキャメラで撮影している。『懲罰パーク(パニッシュメント・パーク)』については、遠山純生「見過ごされた発火点としての映画と一九六八年」(『早稲田文学』2005年1月号)を参照。上記エッセイでも言及されているが、ゴダールとワトキンスの映画作品に想を得て作られた擬似報道映画にハスケル・ウェクスラー監督の『アメリカを斬る』(1969)がある。『アメリカを斬る』のDVDは米パラマウントから出ている。

『カッコーの巣の上で』(1975。監督ミロス・フォルマン)、『ウディ・ガスリー/わが心のふるさと』(1976。監督ハル・アシュビー)、『帰郷』(1978。監督ハル・アシュビー)の撮影監督でもあるハスケル・ウェクスラーの息子マーク・ウェクスラー(1958年生まれ)が父と自分の関係を扱った記録映画『自分が何者かを教えてやれ』(未。2004)のDVDは、ThinkFilmから出ている。マーティン・シーン、マイケル・ダグラス、ロン・ハワード、ジェイン・フォンダ、ビリー・クリスタル、シドニー・ポワチエらのインタヴュー映像付き。

歴史を擬似報道映画の手法で再現するという作品には、第二次大戦でナチス・ドイツが勝利し、4年前から英国を占領しているという前提の1944年の地区看護婦ポーリーンの抵抗の物語『イギリスは占領された!?』(放映題。原題『それはここで起きた』。1956−64。1966年公開。監督ケヴィン・ブラウンロウ、アンドルー・モロ)がある。後の映画史家ブラウンロウが18歳、後の第二次大戦史家モロが16歳の1956年に趣味で作り始められ、1964年に完成した。同作についてはブラウンロウ著『いかにしてそれはここで起きたか』(UKA出版、2005)を参照。

『イギリスは占領された!?』および同じ監督によるデイヴィッド・コーティDavid Caute(1936年生まれ)の小説『同志ジェイコブ Comrade Jacob』(1961)に基づくオーセンティックな擬似報道映画の手法により清教徒革命期の素朴な共産主義的農民グループ、「ディガーズ(掘る者たち)」を率いたジェラード・ウィンスタンレーが、チャールズ1世の処刑の1か月後の1649年4月1日、20人の農夫をイングランド、サリー州の聖ジョージ・ヒルに集め、共有地の開墾を始めた様子を再現した『ウィンスタンレー』(未。1975)のDVDは米マイルストンから出ている。後者には50分のメイキング付き。

ケヴィン・ブラウンロウとデイヴィッド・ギルの監督作『知られざるチャップリン』(未。1986)、『バスター・キートン:ハード・アクトに賭けた生涯』(ビデオ題。1987)、『ハリウッド』(未。1980)のDVDについては「第7回」を参照。

ジョナサン・ローゼンバウムによる10本の黙殺されたサイエンス・フィクション映画

1『眠るパリ』(ビデオ題。1925。監督ルネ・クレール)
2『メトロポリス』(1927。監督フリッツ・ラング)
3『底抜け大学教授』(1963。監督ジェリー・ルイス)
4『呪われた者』(未。1963。監督ジョーゼフ・ロウシー)
5『華麗なる殺人』(1965。監督エリオ・ペトリ)
6『傷だらけのアイドル』(1967。監督ピーター・ワトキンス)
7『ジュ・テーム、ジュ・テーム』(特殊上映題。1968。監督アラン・レネ)
8『未来惑星ザルドス』(1974。監督ジョン・ブアマン)
9『ストーカー』(1979。監督アンドレイ・タルコフスキー)
10『AI』(2001。監督スティーヴン・スピルバーグ)