第13回 DVDで観る吸血鬼映画






ハマー・フィルム・プロが恐怖映画を作り始めたのは1956年。今年は50周年にあたる。

ハマーは1951年、米国の製作者ロバート・リッパートと共同製作を始めた。これによって北米市場を拡大、また米国人俳優の起用も増えた。ハマー初のカラー映画はヴァル・ゲスト(2006年5月10日没)監督の『ロビン・フッド物語』(1954)。

TV版『クウェイタマス』シリーズについて

2005年4月2日に生放送ドラマとしてリメイクされたTVシリーズ『原子人間』について。主演は『エイリアンVSヴァネッサ・パラディ』(2004)のジェイソン・フレミング。

バーナード・クウェイタマス教授に扮すのは反ナチ映画『死刑執行人もまた死す』(1943)のブライアン・ドンレヴィ。ドンレヴィ出演作では、紀伊國屋書店発売の『フィルム・ノワール傑作選』DVD−BOX収録の『ビッグ・コンボ』(公開題『暴力団』。1955)も助演格ながらお勧め。『原子人間』は『吸血鬼ドラキュラ』などで知られるジェイムズ・バーナードの映画音楽デビュー作でもある。

ヴァル・ゲストはきわめて評価しづらい映画監督の一人とされる。1911年ロンドン生まれのヴァルは、もともと映画ジャーナリストで、『ハリウッド・リポーター』紙のロンドン版コラムニストだった。その後、ゲインズバロ喜劇の脚本家となり、演出、製作にも進出したが、その評価はまちまちである。ヴァルの初監督作はゲインズバロ社のミュージカル・コメディ『ミス・ロンドン有限会社』(未。1943)。彼の最も成功したSF古典映画がハマー・プロの『原子人間』(1955)と英国アカデミー賞脚本賞に輝いた『地球が燃えた日』 (未。1961)である。

『原子人間』のヒットがきっかけで、マイケル・カレラスとアントニー・ハインズは、恐怖映画製作を開始した。第一弾は、テレンス・フィッシャー監督、ジミー・サングスター脚本の『フランケンシュタインの逆襲』(1957)。主演はピーター・カッシング、怪物に扮するのはクリストファー・リー。そしてハマー・プロ初の吸血鬼映画がアントニー・ハインズ製作、テレンス・フィッシャー監督、ピーター・カッシング、クリストファー・リー主演の『吸血鬼ドラキュラ』(1958)である。ドラキュラの顔が崩れる場面で日本公開版のみにドラキュラが顔をかきむしると骨が現れる場面があったが、1984年9月3日のフィルム・センター火災時に水をかぶったプリントが廃棄され、もはやその版を観ることはできない。DVDになっているのは米国公開版『Horror of Dracula』。

当時8歳の美少女タニア役のジャニーナ・フェイは、その後、ジョン・ウィンダムのSF小説『トリフィド時代』(1951。創元SF文庫)を映画化した『人類SOS!』(1962)などに出ているが、今なお人気がある。

『吸血鬼ドラキュラ』製作背景について

紀伊國屋書店発売の『映画はおそろしい』DVD−BOXは、ホラー映画ファンとしても知られる黒沢清監督の選んだホラー映画ベスト3の3作(『生血を吸う女』、『回転』、『白い肌に狂う鞭』)をそのままセットで商品化したきわめてマニアックな企画だが、一般にホラー映画ファンのあいだで不動の人気を誇るのは、黒沢が4位に挙げた『吸血鬼ドラキュラ』であるのは間違いない。『映画はおそろしい』BOX封入特典冊子『恐怖の手帖』で黒沢と対談している手塚眞監督はホラー映画の個人的ベスト3に『ヘルハウス』(1963)、『吸血鬼ドラキュラ』、『顔のない眼』(1959)を挙げている。また菊地秀行『怪奇映画ぎゃらりい』(小学館文庫)によると、『吸血鬼ドラキュラ』は「吸血鬼映画史に燦然と輝く恐怖の金字塔にして、菊地秀行の人生を決定づけた運命の一本としても名高い(?)不朽の名作」とされている。

テレンス・フィッシャーについて

ジミー・サングスターについて

梶原和男『ハマーフィルム ホラー&ファンタスティック映画大全』(洋泉社)を参照。 ハマー・フィルム公式

米VCIから『ハマー・フィルム・ノワール・コレクターズ・セット』DVD−BOX(3枚組)が8月15日発売。単品発売もあり。収録作は、レジナルド・ル・ボーグ監督の『ブロンドの虜』(ビデオ題。1953)+テレンス・フィッシャー監督の『密告』(ビデオ題。1952)、テレンス・フィッシャー監督の『盗まれた顔』(ビデオ題。1952)+テレンス・フィッシャー監督の『殺しの代理人』(ビデオ題。1955)、パット・ジェンキンス+テレンス・フィッシャー監督の『賭博師と淑女』(ビデオ題。1952)+ケン・ヒューズ監督の『湖の向こうの家』(未。1954)。

『盗まれた顔』は英DDホーム・エンターテインメントからDVDが出ている。特典にレズリー・アーリス監督の『危険なリスト』(未。1957)収録。24頁のブックレット付き。

しかし、英国製フィルム・ノワールについても1章を割いた、アンドルー・スパイサーのコンパクトな概説書『フィルム・ノワール』(2002。ピアソン・エデュケイション)の巻末リストに挙げられているのは、以上のうち、『ブロンドの虜』、『湖の向こうの家』のみ。逆に、『2001年宇宙の旅』(1968)のフロイド博士役で知られるウィリアム・シルヴェスター主演、テレンス・フィッシャー監督の『記憶喪失の男』(ビデオ題。1954)、スタンリー・ベイカー主演、ヴァル・ゲスト監督の『地獄とは街のこと』(未。1960)などがリストアップされている。『地獄とは街のこと』の原作はモーリス・プロクター『この街のどこかで』(ハヤカワ・ミステリ299)。『地獄とは街のこと』は米アンカー・ベイからDVDが出ている。別エンディング収録。ヴァル・ゲストとジャーナリスト、テッド・ニューソムの音声解説付き。英シネマ・クラブからもDVD発売。こちらも別エンディング収録。

急死したロン・チェイニー(1883−1930)に代わり、トッド・ブラウニング監督の『魔人ドラキュラ』(1931)に主演したベラ・ルゴシ(ルゴシ・ベーラ)が亡くなったのは1956年8月16日。今年50回忌を迎える。ベラ・ルゴシはハンガリーのルゴシュ(現ルーマニア領)出身で本名はブラシュコー・ベーラ・フィレンツ・デジェー。2004年にユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパンから出た『魔人ドラキュラ レガシーボックス』DVD(初回限定生産の『魔人ドラキュラ』は7月28日発売。フィリップ・グラスによるサントラ付き)には、ランバート・ヒリヤー監督の『女ドラキュラ』(1936)、ジョージ・メルフォード監督の『魔人ドラキュラ(スペイン語版)』(1931)、ロバート・シオドマク監督の『夜の悪魔』(1942)、アール・C・ケントン監督の『ドラキュラの屋敷』(公開題『ドラキュラとせむし男』。1945)が収録されている。ただし『魔人ドラキュラ』以外、ベラ・ルゴシは出ていない。

米ユニヴァーサル社は9月26日に、75周年記念版『魔人ドラキュラ』『フランケンシュタイン』(1931。監督ジェイムズ・ホエイル)のDVDを出す。それぞれ未発表の特典を含む特典盤付き。前者にはスペイン語版も収録。

  『吸血鬼ノスフェラトゥ』とユニヴァーサル社のドラキュラ映画については、デイヴィッド・J・スカル『ハリウッド・ゴシック/ドラキュラの世紀』(国書刊行会)、吸血鬼映画全般については、ジョン・L・フリン『シネマティック・ヴァンパイア/吸血鬼映画B級大全』(フィルムアート社)を参照。またトッド・ブラウニングについては、デイヴィッド・J・スカル『『フリークス』を撮った男/トッド・ブラウニング伝』(水声社)を参照。デイヴィッド・J・スカルの著書には、このほか『モンスター・ショー/怪奇映画の文化史』(国書刊行会)がある。

米ユニヴァーサル社から昨年『ベラ・ルゴシ・コレクション』DVDが出た。収録作は、ロバート・フローリー監督の『モルグ街の殺人』(1932)、エドガー・G・ウルマー監督、ボリス・カーロフ共演の『黒猫』(1934)、ルイ・フリードランダー監督、ボリス・カーロフ競演の『大鴉』(1935)、ランバート・ヒリヤー監督、ボリス・カーロフ共演の『透明光線』(1935)、アーサー・ルービン監督、ボリス・カーロフ共演の『黒い金曜日』(未。1940)。『透明光線』、『黒い金曜日』以外、原作はエドガー・アラン・ポー。

トッド・ブラウニング監督、ベラ・ルゴシ主演の『古城の妖鬼』(1935)とチャールズ・J・ブレイビン監督、ボリス・カーロフ主演の『成吉斯汗(ジンギスカン)の仮面』(1932。原題『フー・マンチューの仮面』)の失われたと思われていたオリジナル・キャメラ・ネガティヴが発見され、米ワーナー社から10月3日発売の『ハリウッド・ホラー伝説コレクション』DVD−BOX(両面収録ディスク3枚組)に収録。前者の撮影はジェイムズ・ウォン・ハウ。『ハリウッド・ホラー伝説コレクション』の他の収録作は『ドクターX』(1932。監督マイケル・カーティーズ)、『ドクター・Xの帰還』(未。1935。監督カール・フロイント)、『狂恋』(1935。監督カール・フロイント)、『悪魔の人形』(1936。監督トッド・ブラウニング)。

『フランケンシュタイン』の怪物役や『成吉斯汗(ジンギスカン)の仮面』のフー・マンチュー博士役で知られるボリス・カーロフ関連では、9月19日に、米ユニヴァーサル社から『ボリス・カーロフ・コレクション』DVD−BOX(3枚組)発売。収録作は『夜の鍵』(1937。監督ロイド・コリガン)、『恐怖のロンドン塔』(1939。監督ローランド・V・リー、共演バジル・ラスボーン)、『クライマックス』(未。1944。監督ジョージ・ワグナー)、『The Strange Door』(未。1951。原作ロバート・ルイス・スティーヴンソン『マレトルワ邸の扉』、監督ジョーゼフ・ペヴニー、共演チャールズ・ロートン)、『黒い城』(未。1952。監督ネイザン・ジュラン、共演リチャード・グリーン)。

国内では8月25日にIVCから「RKO クラシックホラー ヴァル・リュートン傑作集」シリーズ(レヴュー)として、ボリス・カーロフ主演の、『死体を売る男』(ビデオ題。1945。監督ロバート・ワイズ)、『吸血鬼ボボラカ』(ビデオ題。1945。監督マーク・ローブソン)、『恐怖の精神病院』(ビデオ題。1946。監督マーク・ローブソン)のDVDが出る。同時発売タイトルは『レオパルドマン/豹男』、『私はゾンビと歩いた』、『キャット・ピープルの呪い』。昨年、米ワーナー社から『ヴァル・リュートン・ホラー・コレクション』DVD−BOX(5枚組)が出ているだけに国内盤マスターのクォリティや仕様が気になるところ。それにしても「レパード・マン」が「レオパルドマン」という邦題表記なのはひどすぎる。ちなみに『ヴァル・リュートン・ホラー・コレクション』収録作は、『キャット・ピープル』、『キャット・ピープルの呪い』、『私はゾンビと歩いた』、『死体を売る男』、『吸血鬼ボボラカ』、『恐怖の精神病院』、『レオパルドマン』、『幽霊船』(未。1945。監督マーク・ローブソン、撮影ニコラス・マズルカ)、『第七の犠牲者』(未。1943。監督マーク・ローブソン、撮影ニコラス・マズルカ)、『闇の中の影:ヴァル・リュートン伝説』(未。2005。監督コンスタンティン・ナスル。53分)。

なおヴァル・リュートン製作、ロバート・ワイズ(2005年9月14日没)の監督デビュー作『ナチスに挑んだ女』(ビデオ題。1944)はフランス、エディシオン・モンパルナス、スペイン、マンガ・フィルムスからDVDが出ている。原作はモーパッサンの『フィフィ嬢』(1882)と『脂肪の塊』(1880)。

『ナチスに挑んだ女』エディシオン・モンパルナス盤DVD

『ナチスに挑んだ女』マンガ盤DVDレヴュー

『ベラ・ルゴシの幽霊の館』(1941)の監督ジョーゼフ・H・ルイスも絶賛した、ベラ・ルゴシに関するゲアリー・ドン・ローズ監督のドキュメンタリー『ベラ・ルゴシ:ハリウッド・ドラキュラ』(未。1997 / リンク先でルゴシによるエドガー・アラン・ポー『告げ口心臓』の朗読を聞くことができる)は2枚組のディレクターズ・カット特別版(120分)がDVD化されている。公開時にカットされた場面が約30分付け加えられている。特典としてルゴシの放送録音を収録したCD付き。現存する最も古いハンガリーでのルゴシ出演作、アルフォンス・ドーデ原作(1890)、アルフレード・デーシ監督の『生存闘争』(未。1918)、リヒャルト・アイヒベルク監督のドイツ映画『火山の踊り』(未。1920)、ウィルフレッド・ノイ監督、ライラ・リー主演のアメリカ映画『深夜の娘』(1925)ほか、貴重なフィルム・フッテージ、写真、息子や未亡人、ロバート・ワイズ、ハワード・W・コッチの映像インタヴューを含む。ナレーターはルゴシの共演者ロバート・クラークとルゴシ・ファンのルー・マクラナハン。

ゲアリー・ドン・ローズ著『ルゴシ』(1997)

ゲアリー・ドン・ローズ著(2006)『ホワイト・ゾンビ』

30〜40年代のルゴシ出演作のいくつかは、米アルファ・ヴィデオほか、複数のパブリック・ドメインのメーカーからDVD化されているが、当然画質は悪い。さしあたり米ブレントウッドの廉価DVD−BOX『ベラ・ルゴシ・コレクション:10本の映画』を紹介しておく。収録作は以下の通り。弱小映画会社PRC社初の成功作と言われるジーン・ヤーブロー監督の『デビル・バット』(放映題。1940)、ヴィクター・ハルペリン監督の『ホワイト・ゾンビ』(初公開題『恐怖城』。1932)、リッツ兄弟共演、アラン・ドワン監督の怪奇喜劇『ゴリラの脅迫状』(放映題。1939)、ウォレス・フォックス監督の『死体消失』(未。1942)、戦時中の日本の諜報活動を扱った、ウィリアム・ナイ監督の『黒龍会』(未。1942)、『キング・コング』(1933)のエドガー・ウォレス原作、ウォルター・サマーズ監督の英国映画『ロンドンの邪悪な目』(未。1940)、クリスティ・キャバーン監督のカラー映画『死体の告白』(放映題。1947)、ウィリアム・ナイ監督の『謎のウォン氏』(未。1934)、『魔人ドラキュラ』、『ミイラ再生』(1932)、『黒猫』のデイヴィッド・マナーズ主演、エドウィン・L・マリン監督の『死の接吻』(未。1932)、ウィリアム・ボーダイン監督の『ジャングルの騒動』(放映題。1952)。各ディスクの特典は、ユニヴァーサル社の連続活劇、フォード・ビービー、ソウル・A・グッドカインド監督の『亡霊が忍び寄る』(未。1939)全12話。

米ローン・グループの『ホワイト・ゾンビ』特別版DVDレヴュー)は、修復版を用いた貴重なディスク。ただし音質にはやや問題がある。ゲアリー・ドン・ローズの音声解説付き。また特典には、1931年と1951年のルゴシのインタヴュー映像、1952年の再公開時の『ホワイト・ゾンビ』予告編が付く。

米アルファ・ヴィデオから6月27日、アルトゥーア・ヴェリン監督の『革脚絆物語、第1部:鹿狩人とチンガチグック』(未。1920)のDVDが出た。

これはドイツでも人気のあるジェイムズ・フェニモア・クーパーの全5部からなる大作西部小説『革脚絆物語』の一編『鹿脚絆』(1841)に基づくドイツ無声映画の珍品。エミール・マメロックが「鹿狩人」に、ベラ・ルゴシはモヒカン族の勇敢な族長チンガチグックに扮する。ちなみに『革脚絆物語、第2部:モヒカン族の最後』(未。1920)にも、マメロックとルゴシが出演している。

他のルゴシ出演作に、「第7回」で紹介したワーナーの『ガルボ・シグネチャー・コレクション』DVD−BOX(10枚組。初回限定の日本盤は6枚組)収録の『ニノチカ』(1939)がある。

ルゴシに関してはアーサー・レニグ『不死の伯爵:ベラ・ルゴシの生涯と映画』(ケンタッキー大学出版、2003)をも参照。

英国のゴシック・ロック・バンド、バウハウスの1979年のデビュー・シングルは『ベラ・ルゴシ・イズ・デッド』だった。これはカトリーヌ・ドヌーヴ、デイヴィッド・ボウイ共演、トニー・スコット監督の長編デビュー作の吸血鬼映画『ハンガー』(1983)にも用いられた。『ハンガー』は1997年、リドリー&トニー・スコット兄弟の製作によりTVシリーズとしてリメイクされた。パイロット版の第一話『剣』はトニー自身が監督。1999−2000年放映のシーズン2までにパイロット版『ハンガー/トリロジー』3話を含め計44話。シーズン1のホストはテレンス・スタンプ、日本未放映のシーズン2のホストはデイヴィッド・ボウイ。なおボウイはクリストファー・プリーストの『奇術師』(1995。ハヤカワ文庫)に基づく、クリストファー・ノーラン監督の新作『Prestige』(10月20日公開)で発明家ニコラ・テスラを演じている。

パイオニアLDCより初回限定生産『ハンガー コンプリートBOX』(7枚組。『ハンガー/トリロジー』含む)が出ていたが、日本未放映の『Hidebound』の挿話未収録の不完全版だった。全話収録のDVD−BOXは英インフィニティ・ヴィデオから出ている。

『ハンガー(TV版)シリーズ1』(『Hidebound』を含む全22話)、英Infinity Video盤DVDレヴュー

『ハンガー(TV版)シリーズ2』(日本未放映)、英Infinity Video盤DVDレヴュー

ところで、リッカルド・フレーダ、マリオ・バーヴァ監督の『吸血鬼』(未。1957)は、イタリアのトーキー映画史上初の恐怖映画といわれる。こちらも製作から数えて今年50周年を迎える。主演はフレーダ夫人だったと言われるジャンナ・マリア・カナーレ、ダリオ・ミカエリス、カルロ・ダンジェロ。 『恐怖の手帖』所収の談話中で中原昌也も題名のみ言及している。

リッカルド・フレーダは日本ではあまり知られていないので簡単に紹介しておく。1909年、アレクサンドリア生まれで、ミラノ大学で彫刻を学び、1933年、映画実験センター(チェントロ)入学。1937年、脚本家となり、1942年に監督デビュー。初監督作はジーノ・チェルヴィ主演『バザンのドン・セザール』(未。1942)。この物語は、マスネのオペラ(1872年初演)で知られる。ジーノ・チェルヴィ(1901−1974)はイタリアではジョルジュ・シムノンの推理小説に基づくTVシリーズ『メグレ警視の事件簿』(未。1964−68。1972)のメグレ警視役で有名。フレーダのその他の代表作に、彼が10代の頃観たプーシキンの未完の小説『ドゥブロフスキー』(1841)に基づく、ルドルフ・ヴァレンティノ主演『荒鷲』(1925)のリメイクで、ロッサノ・ブラッツィ主演の『黒鷲』(未。1946)、ユゴー原作(1862)、ジーノ・チェルヴィ、ヴァレンティナ・コルテーゼ主演『レ・ミゼラブル』(未。1947)、ヴィットリオ・ガスマンの初主演作『神秘の騎士』(1948)、ロッサノ・ブラッツィ主演『黒鷲の復讐』(未。1951)、「剣とサンダル」映画(あるいは「ペプルム」映画。「ペプルム は古代ギリシャ=ローマ風の衣裳のこと)、マッシモ・ジロッティ主演『スパルタカス』(未。1953)、ジャンナ・マリア・カナーレ主演のイタリア=フランス合作映画『戦車を駆る女王 テオドラ』(1954)、ミシュリーヌ・プレール、ジーノ・チェルヴィ主演のイタリア=フランス合作映画『ベアトリーチェ・チェンチ』(未。1956)などがある。フレーダ監督、ゴードン・スコット、谷洋子主演の『フビライ・カン宮廷のマチステ』(未。1961)に関しては、当コラム第1回「ニコラス・レイ、谷洋子」を参照。

『神秘の騎士』はイタリアDNCからDVDが出ているがイタリア語のみ。>
「ペプルム映画」について(英語)

1956年、『吸血鬼』(レヴュー dvdtalk.com / digitallyobsessed.com)はリッカルド・フレーダ監督により撮影が始められた。マリオ・バーヴァは当初、撮影技師、視覚効果デザイナーとして参加した。だがフレーダは演出を降り、バーヴァは演出を引き継いだ。その後もバーヴァはピエトロ・フランシスキ監督、スティーヴ・リーヴス主演の『ヘラクレス』(1957)やその続編『ヘラクレスの逆襲』(1958)で監督の代理を務めた。ちなみにレフ・トルストイの、北カフカスの英雄を主人公とする最晩年の小説『ハジ・ムラート』(1896−1904)に基づく、フレーダ監督、スティーヴ・リーヴス主演のイタリア=ユーゴ合作映画『快傑白魔』(1959)の撮影もバーヴァが担当。『ヘラクレス』では『鉄道員』(1956)、『ミハイル・ストロゴフ』(未。1957)のクロアチア出身の美女シルヴァ・コシナとジャンナ・マリア・カナーレが共演。1959年の『カルティキ、不死の怪物』(未)で、フレーダはバーヴァを撮影監督に起用したが、またもや2日で演出を放棄し、製作者のリオネッロ・サンティはバーヴァを監督に抜擢した。

マリオ・バーヴァの公式な監督デビュー作は、『甘い生活』(1959)、『81/2』(1963)にも出ているバーバラ・スティール主演の吸血鬼映画『血ぬられた墓標』(1960。原題『悪魔の仮面』)である。一般に、『吸血鬼』よりこちらの方がはるかに評価が高い。日本公開版は、短縮されたAIPによるアメリカ公開版。2001年修復版(87分)がフィルム・センターで行われた「イタリア映画大回顧」で初上映された。JVDから出ている国内盤DVDも同じ版。特典として別編集版(84分)も収録。ロジャー・コーマン監督のポー原作B級怪奇映画に影響を受けた、バーバラ・スティールの吸血鬼映画に、紀伊國屋書店から6月24日発売の『映画はおそろしい アントニオ・マルゲリーティ篇DVD−BOX』収録の『幽霊屋敷の蛇淫』(1984)もある。こちらも日本公開版は大幅に短縮されていたが、全長版でのリリース。ただし音声はフランス語版で、物語もイタリア語版、英語版とやや異なる。

『吸血鬼』について 日本語 / 英語

『ヘラクレス』はパブリック・ドメイン作品のため各種DVDが出ている。『ヘラクレス』+『モグラ人間対ヘラクレスの息子 Mole men against The Son of Hercules』(未。1961。マーク・フォレストがヘラクレスの息子マチステに扮する)、米イメージ・エンターテインメント盤DVD(180分)は5月30日発売。

シルヴァ・コシナについての日本語記事
50年代のジャンナ・マリア・カナーレの写真
『ヘラクレス』+『ヘラクレスの逆襲』ドイツ、コンコード・ヴィデオ盤DVD日本語レヴュー
『ヘラクレス』米イメージ・エンターテインメント盤DVD日本語レヴュー

『ヘラクレス』フランス、ゴーモン=コロンビア・トライスター・ホーム・ヴィデオ盤DVDは2000年に出たが廃盤。『ヘラクレス』ブラジル、クラシックライン盤は英語音声、ポルトガル語字幕、97分。『ヘラクレスの逆襲』クラシックライン盤は97分。

ゲアリー・S・グランド監督の記録映画『マリオ・バーヴァ:地獄の舞踏』(2001)は、ジェネオン・エンタテインメントからDVDが出ている。

マリオ・バーヴァ略歴(英語)
マリオ・バーヴァについて(英語)
マリオ・バーヴァ米盤DVD各種レヴュー(日本語)
吸血鬼映画フィルモグラフィ(英語)