第4回 DVDによる1968年再考












ゴダールの『ワン・プラス・ワン』(1968)は日本でも90年代に公開され、DVDにもなっているので、よく知られていることだろう。しかし、実はそれはゴダールの『One + One』ではない。『One + One』という題名は監督のゴダール自身が自分の編集した版に付けたものだが、日本で『ワン・プラス・ワン』として流通している作品は、ストーンズを商業的な売りにするため、『Sympathy for the Devil』すなわち、ストーンズの『悪魔を憐れむ歌』と同じ題名にし、同名曲のテイクを全編サウンドトラックに含めた、プロデューサー、イアン・クォリエイの編集した版である。

ところで、フランスのカルロッタからついにゴダール版の『ワン・プラス・ワン』DVDが5月3日に発売。オーストラリアの記録映画作家リチャード・モードント監督による44分のメイキング『Voices』(1968)付き。

『ワン・プラス・ワン』仏盤DVD

国内盤は『ワン・プラス・ワン/悪魔を憐れむ歌』の題名でキングレコードから7月5日発売。

ストーンズを記録した幻のTV番組『ロックンロール・サーカス』(1968)も、28年の封印を経て1996年にビデオ化された後、DVD化された。監督は『ビートルズ レット・イット・ビー』(1970)、『幸福の選択』(1990)のマイケル・リンゼイ=ホッグ。撮影は、『ワン・プラス・ワン』、『レット・イット・ビー』、『赤い影』(1973)、『地球に落ちてきた男』(1976)のトニー・リッチモンド。「悪魔を憐れむ歌」のほか、オノ・ヨーコとヴァイオリニスト、イヴリー・ギトリスの共演も収録。ギトリスは『アデルの恋の物語』(1975)に催眠術師役で出演している。

リンゼイ=ホッグのTV映画『トゥー・オヴ・アス』(未。2000)はジョン・レノンとポール・マッカートニーを主人公とするフィクション。米パラマウントからDVDが出ている。

『トゥー・オブ・アス』DVD

『ロックンロール・サーカス』はブライアン・ジョーンズ最後のライブを収めているが、1969年に亡くなったブライアン・ジョーンズの伝記映画『ブライアン・ジョーンズ ストーンズから消えた男』(2005)が今夏日本公開される。ブライアン・ジョーンズの68年ものといえば、フォルカー・シュレーンドルフの『Mord und Totschlag』(未。1967)。主演はアニタ・パレンバーグ、ジョーンズは音楽を担当。ストーンズ・フリークの多い日本でも、この映画のことはあまり聞かないのは不思議である。

ゴダールの68年ものといえば、昨年オムニバス『愛と怒り』(ビデオ題。1969)のDVDも、米ノー・シェイム・フィルムズから2枚組の特別版が出た。他の監督はカルロ・リッツァーニ、ピエル・パオロ・パゾリーニ、ベルナルド・ベルトルッチ、マルコ・ベロッキオ。

同時に出たのがベルトルッチの『パートナー』(1968)の2枚組特別版DVD。ベルトルッチと1968年といえば『ドリーマーズ』(2003)が記憶に新しいが、なぜか彼の最も68年的な作品『パートナー』だけは日本未公開で放映もソフト化もない。原作はドストエフスキーの『二重人格(分身)』。主演はフィリップ・ガレルらと交流のあったピエール・クレマンティ、ティナ・オーモン。撮影は『アンナ・マクダレーナ・バッハの日記』(1967)のウーゴ・ピッコーネ。特典盤には、批評家エドアルド・ブルーノの37年ものあいだ封印され幻の作品だった唯一の監督作『彼の栄光の日』(未。1969)も収録。

『パートナー』コレクターズ・エディションはイタリアのDNCからもDVDが出ている。またフランスではベルトルッチの処女作『殺し』(1962)と『パートナー』のダブル・フィーチャーDVDがレ・フィルム・ド・マ・ヴィから出ている。

ベルトルッチの『革命前夜』(1964)は日本でもビクターからDVDが出てすぐ廃盤になった。イタリアのリプリーズ・ホーム・ヴィデオから2枚組の特別版DVDが出ている。これは英語字幕も付く。

『革命前夜』特別版DVDレビュー

ストローブ=ユイレの『アンナ・マクダレーナ・バッハの日記』(1967)の米ニューヨーカー・フィルムズのDVDは、マスターは紀伊國屋書店盤の流用ながら特典のメイキングが貴重。

紀伊國屋書店の『ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーDVD−BOX1』に日本未公開の『愛は死より冷酷』(1969)が収録されているが、この作品にはストローブ=ユイレの短編『花婿、女優、ヒモ』(未。1968)の引用がある。昨年、イタリアのラロ・ヴィデオから出た『愛は死より冷酷』のDVDには、特典として日本盤同様、短編『宿なし』(未。1965)、『小カオス』(未。1966)も収録されているが、それに加え『花婿、女優、ヒモ』も収録されている。英語字幕付き。封入冊子もイタリア語・英語の二か国語。

ラロ・ヴィデオからはカルメロ・ベーネの『トルコ人たちのマドンナ』(特殊上映題。1968)のDVDも出ている。特典は短編『エルミタージュ』(未。1967)。2000年に亡くなったベーネはジル・ドゥルーズとの共著『重合』(法政大学出版局)などで知られるが、監督作の日本公開作は1本もない。パゾリーニの『アポロンの地獄』(1967)でクレオン役を演じている。監督処女作の『トルコ人たちのマドンナ』は1968年のヴェネツィア映画祭に、『パートナー』と共に出品され、審査員特別賞を受賞した。(1967年度の審査員特別賞はゴダールの『中国女』とベロッキオの『中国は近い』)。同作は、日本では2001年の「イタリア映画大回顧」で初めて上映された。

『愛と怒り』にも参加したマルコ・ベロッキオは新作の『夜よ、こんにちは』(2003)の日本公開が話題になっているが、彼の処女作『ポケットの中の握り拳』(1965)の長尺版のDVDが、4月25日、米クライテリオンから発売。

近年、各国で60年代末の反体制的映画の見直しが行われているが、フランスのMK2も68年にまつわる埋もれた映画を次々とDVD化している。主宰者マリン・カルミッツの特典映像満載のBOXもすこぶる貴重だが、ずばり『68年5月』と題したDVD−BOXには、ロマン・グーピルの『三十歳の死』(特殊上映題。1982)、ジャック・ドワイヨンの『01年』(未。1973)、カルミッツの『拳に拳を』(未。1972)の3作収録。こうしたものを好事家なり収集家が独占するのには違和感を覚えはするが。

1998年発表のカルミッツ・インタヴュー (仏語

日本でも公開予定のフィリップ・ガレルの『ありふれた恋人たち』(仮題。2004)の主演は『ドリーマーズ』のルイ・ガレル。同作のDVDは仏MK2から5月11日発売。興味深いボーナス付き。

  『ありふれた恋人たち』仏盤DVD

特典盤に収録されるのは、68年の自主制作映画運動の母体となったザンジバル・フィルムについての関係者の一人ジャッキー・レイナルの記録映画『ザンジバル』(26分)、紀伊國屋書店のDVD−BOX『エリック・ロメール・コレクション I』収録の『コレクションする女』(1967)やゴダールの『ウイークエンド』(1967)にも出ているダニエル・ポムルールの中編映画『Vite』(33分)など。なおポムルールはガレルの『夜風の匂い』(1999)やトニー・マーシャルの『逢いたくて』(2002)にも出ていたが、2003年12月に亡くなった。レイナルについては、紀伊國屋書店のDVD『ヌーヴェルヴァーグ・セレクション』収録の『パリところどころ』(1965)の封入解説冊子でも若干言及しているが、以下を参照。

ザンジバル・フィルムズについて

『ありふれた恋人たち』に関する英語記事

日本国内ではキングレコードから前衛演出家マルコー唯一の劇映画『アイドルたち』(1968)のDVDが5月10日発売。『パートナー』のピエール・クレマンティ、『狂気の愛』(未。1967)のビュル・オジエとジャン=ピエール・カルフォンがアイドルに扮するアングラ・ポップ映画だが、ダニエル・ポムルールや『パリところどころ』の製作助手の一人でイオセリアーニの友人でもあるパスカル・オビエもチョイ役で出演。

パスカル・オビエ公式HP

フランスでついにパスカル・オビエ全集のDVDが発売された。1973年度ジャン・ヴィゴ賞受賞の『バルパライソ、バルパライソ』(未。1971)、『出発の歌』(未。1975)、すでに米盤DVDの出ている『ガスコーニュの息子』(未。1994)の3長編のほか、27本の短編も収録。各種特典も充実。本人のインタヴュー2本のほか、イオセリアーニのインタヴューも収録。

同時に『バルパライソ、バルパライソ』+『出発の歌』(2枚組)と『ガスコーニュの息子』(2枚組)は単体でも発売。『ガスコーニュの息子』に関しては、『イオセリアーニに乾杯!』(エスクァイア マガジン ジャパン)を参照。 映画業界に顔のきくいかがわしいリムジン運転手が、主人公の青年と出会い、彼こそ伝説の映画人アレクサンドル・ガスコーニュの息子だと決めつけ、いろいろな映画人に紹介する。ガスコーニュが伝説の女優アドリアーナ・ボグダンと共演したという幻の映画を主人公とロシア人少女が探すという虚実入り混じったシネフィル的物語。イオセリアーニ、シャブロルほか多くの映画人が本人役で出演しているが、最後のパーティ場面にはジャン・ルーシュも本人役で登場する。アドリアーナ・ボグダンは実在の女優で、ジョゼ・ヴァレラの『風もひとりぼっち』(1967)、ベルギーのアンドレ・デルヴォー監督の『イブ・モンタンの深夜列車』(放映題。1968)などに出ている。

『アイドルたち』に関しては以下の記事も参照。

『アイドルたち』公式サイト

なお『アイドルたち』の舞台版の一部を記録した『想い出のサンジェルマン』(1967)の監督ジャック・バラチエの娘が、近年のロメール映画の撮影監督ディアーヌ・バラチエ(1963年生まれ)である。ジャック・バラチエの68年的な映画といえば、ジャック・ラカンも賞賛したという中編SM劇『罠』(未。1968)である。『アイドルたち』にも出ているベルナデット・ラフォンとビュル・オジェとスペインの劇作家フェルナンド・アラバールが共演。ジャッキー・レイナルもチョイ役で出演。

本年2月にF・アルドゥアンの『Jacques Baratier』(Nouveau Monde Editions)という書物も刊行された。

アレハンドロ・ホドロフスキーや寺山修司とも交流のあったアラバールの監督の3作、フランス語音声の『死者万歳』(未。1971)、エマニュエル・リヴァ主演、フランス語、オランダ語、ドイツ語音声の『私は荒馬のように歩くだろう』(未。1973)、イタリア語音声の『ゲルニカの木』(未。1975)もDVD化されている。

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