第2回 リチャード・フライシャー追悼






2006年3月25日、リチャード・フライシャーがロサンジェルスの病院で亡くなった。享年89歳。

サンタ・モニカのアエロ劇場で3月15日から19日まで回顧上映が行なわれたばかりだった。上映作品は『見えない恐怖』(1971)、『その女を殺せ』(ビデオのみ。1952)、『恐怖の土曜日』(1955)、『絞殺魔』(1968)、『10番街の殺人』(ビデオのみ。1970)、『海底二万哩』(DVD題『海底2万マイル』1954)、『ミクロの決死圏』(1966)、『ソイレント・グリーン』(1972)。

回顧上映の告知

マックス・フライシャーの息子、リチャード・フライシャーの映画監督としてのキャリアは1942年にRKO社で始まっている。だが残念なことに日本では大作を手がける前の初期フライシャー作品のほとんどが未公開で、ビデオその他でも、あまり観られていない。スタンリー・クレイマー製作、ロバート・オルドリッチが助監督についた『ムコ捜し大騒動』(48年)はTV放映のみだし、『札束無情』(50年)は放映とビデオ発売のみ。初期の代表作『その女を殺せ』(52年)でさえ、放映とビデオ発売のみ。日本での初公開作は立体映画『ロデオの英雄』(53年。ただし日本では平面上映)だが、これはソフト化されていない。

ディズニー映画の『海底二万里』(DVD題『海底2万マイル』。54年)が、一般に長く観続けられてきたフライシャー監督の最も初期の作品ということになるだろうか。映画に登場する潜水艦ノーチラス号は、アナハイムに建設中だったディズニーランドのアトラクションという名目でディズニーランドの経費で制作、ディズニーランドに永久展示されている。

ノーチラス号のレプリカ発売告知

最後の監督作は1989年のSF短編『宇宙からの呼び出し』(未)。これはショースキャン映画である。ショースキャンとはダグラス・トランブルの考案による映画上映方式で、70mm大型フィルムを毎秒60コマの速度で撮影し、6チャンネルのサウンド・システムで上映することで、観客の中枢神経系の反応度が高まるが、長時間上映を体感すると疲労も激しい。上映時間29分。長編だと1987年の『おかしなおかしな成金大作戦』が最後の監督作となる。

フランシス・ローゼンウォルドとアンソニー・マン原案、リチャード・フライシャー監督の約1時間のフィルム・ノワール『ひそかに私のあとを追え』(未。1949)の仏エディシオン・モンパルナス盤DVDが3月1日に発売されたばかりだ。

「判事」と名乗る連続殺人鬼を刑事が追い詰めるという話。原案のローゼンウォルドについては情報がほとんどないが、「B級映画の王者」エドガー・G・ウルマーと共にアレクサンドル・デュマのキャラクターを転用し、『モンテ・クリストの妻』(1946)の原案を書いている。

『ひそかに私のあとを追え』主演のウィリアム・ランディガンはB級スターのため日本の映画ファンにはなじみが薄いと思われるが、マイケル・カーティーズ監督、エロール・フリン主演の『無法者の群』(1939)、『シー・ホーク』(1940)、『カンサス騎兵隊』(1940)の脇役が最も有名な出演作だろう。4月14日、日本では未公開の『恋愛アパート』(1951)がフォックス・スタジオ・クラシックスの1枚としてDVDで発売。マリリン・モンローがキャスティングされているのが売りと思われる。

『恋愛アパート』国内盤DVD

ランディガンの他の主演作にロバート・ワイズ監督の『メキシコでの怪事件』(未。1948)がある。ウィリアム・キャッスル監督の『ナイル河の蛇』(未。1953)ではクレオパトラ役のロンダ・フレミング、アントニウス役のレイモンド・バーと、ロイ・ウォード・ベイカー監督の『地獄の対決』(放映のみ。1953)ではロバート・ライアン、ロンダ・フレミングと共演。『地獄の対決』は初のシネマスコープ立体作品。

『ひそかに私のあとを追え』のDVDはスペインのマンガ・フィルムスでも4月19日に発売される。同時に『クレイ・ピジョン』(未。1949)のDVDも発売される。 さらに5月23日には米20世紀フォックスから犯罪劇『強迫』(放映のみ。1959)とランディガンも出ている西部劇『フォート・ブロックの決斗』(1959)のDVDが発売される。これはフォックス・スタジオ・クラシック国内盤発売の可能性も期待できるだろう。また米ワーナー・ホーム・ヴィデオの『フィルム・ノワールBOX』第3弾にはロバート・ミッチャム主演のカルト的ノワール『替え玉殺人計画』(放映のみ。1951)が収録される。これはジョン・ファロウ監督作だがフライシャーが応援監督した。ヴィンセント・プライスの珍妙な演技が見もの。これまではスペインとイタリアだけでDVD化されていたもの。

ワーナーの『フィルム・ノワール』BOX第3弾には、他に『国境事件』(未。1949。アンソニー・マン監督)、『湖中の女』(1947)、『危険な場所で』(1952。ニコラス・レイ監督)、『脅迫者』(1951。ビデオのみ。ジョン・クロムウェル監督。応援監督ニコラス・レイ)が含まれる。単体発売あり。ロバート・モンゴメリーの監督第1作で、レイモンド・チャンドラー原作の『湖中の女』は米国ではビデオが出ていたが、一人称キャメラという試みで有名なわりになかなか観る機会のなかった貴重な作品。

今のところ、DVDで観られる最初期のフライシャー監督作は長編第2作にあたる『バンジョー』(未。1947)だろう。同作のDVDはスペインのマンガ・フィルムスから2006年1月11日に発売された。子役女優シャリン(シャロン)・モフェット(1936年9月12日生まれ)の映画はすべて日本未公開。『死体を売る男』(1945)『サンフランシスコ殺人事件』(1945)、『危険な女』(1946)がビデオ発売、『ウチの亭主と夢の宿』(1948)が放映のみ。

シャリン・モフェットのデビュー作『お友だちのウルフ』(未。1944)、リチャード・フライシャーの長編第一作『親の離婚した子供』(未。1946)、『バンジョー』の3本でモフェットと共演しているのがウナ(ユナ)・オコナー。  北アイルランド出身の彼女は性格俳優として映画界で活躍した。40年代後半の出演作では『クリスマス・イン・コネチカット』(DVDのみ。1945)や『聖メリーの鐘』(1945)や『ルービッチュの小間使』(1946)あたりの脇役でおなじみ。遺作はビリー・ワイルダー監督の『情婦』(1957)。

『親の離婚した子供』には、もう一人の子役女優アン・カーター(1936年6月16日生まれ)もカメオ出演している。カーターはヴェロニカ・レイクそっくりのため『奥様は魔女』(1942)ではレイクの娘役にキャスティングされた。ロバート・ワイズ監督の監督デビュー作『キャット・ピープルの呪い』(ビデオのみ。1944)でのシモーヌ・シモンの娘役が有名。16歳の時に出た、カーソン・マッカラーズの小説『夏の黄昏』に基づくフレッド・ジンネマン監督の『The Member of the Wedding』(1952)が最後の出演作。

*『バンジョー』のシャリン・モフェットのスチル写真

*ヴェロニカ・レイクそっくりのアン・カーターの写真

ウナ・オコナーのフィルモグラフィ

*『フィルム・ジャーナル』誌13号(2006年1月)のフライシャー特集